PHASE-70【下生えを踏みしだいて】

「うん。いい気概だ」

 幸先いいね。やる気のある奴には優しくなる中佐様が、俺に笑顔を見せてくれる。

 こんなご褒美はめったにないから更にテンション上がる。


「その勢いで目立ってください。魔王軍はこれから、侵攻と同時進行で主を狙うでしょうから」


「ん?」

 勇者だからね。最優先で狙われるのはしかたないとしても、言い切ったな。先生。


「王都におけるオークの撃退は偶然。砦を破壊された事も偶然の勝利。王都へ先遣、幹部麾下の将が指揮する本隊が破られれば、それは偶然ではなく、必然。その時から、主は魔王にとって、この世界での最大の脅威となったでしょう」

 両耳を塞ぎたくなるね。

 だがしかし、


「やらいでか! 俺だって日夜努力してるんだ。魔王なんてボッコボコにしてやんよ!」

 テンション上がってるし、ベルにいいかっこしたいという、童貞男のやせ我慢を発揮してやる。

 周囲の王様やら家臣団から喝采を浴びる。

 俺に権力を持たれるのは嫌だってのも数人いるが、皆よろこんでるよ。

 その数人の掌返しを目にすれば、政治屋たちってのは、世界が変わろうが、時代が違おうが、似てるのばっかりだな。


「更には主を標的とすれば、ここへの侵攻もいささか手ぬるくなる事も考えられます。ありがたいことです」

 なにを健やかな笑みを湛えて言っているんですか先生……。素質がどうのこうのじゃなく、ナチュラルボーンなサイコパスなんですかね?

 これからの王都は、改修と開拓で忙しくなると、すでに復興にシフトチェンジしてる。


「主。主と従者が、四大聖龍リゾーマタドラゴンを救い出すべく、行動し始めたと各地に発しましたので、敵も厳戒態勢となります」

 余計なことを実行しないでいただきたい……。

 ますます俺たちが狙われるじゃないですか。

 付いてきてくれる二人に目を向ければ、問題ないといったかんじで、不安げな表情なんていっさいしない。

 俺とは正反対だよ。

 さらに俺と正反対なのは、王都の脅威が軽減すると喜んでる王様たちね。

 泣かすぞ!





「先生の言うように狙われすぎだろ!」

 まさか王都を出て数日で、オーク達に追われる羽目になるとは……。

 現在、王都西にあるヘルガー峡谷を通過して、更に西の森の中。闇夜に支配された世界を全力疾走だ。


「きりがないな」

 森の中を軽快に走りつつ、炎を纏ったベルが、迫るオーク達を灰燼と変えていくんだけども、森の中では、雨後の竹の子なのかとツッコミたくなるほどに、次から次へとオークが現れる。

 しかも今回は、ベルに対して畏れを抱いているのに、逃げ出さない。

 不退転の決意とばかりに、攻めてくる。


「ゲリラ戦で、相手は死兵だ。こういう手合いが一番やっかいだな。生きて帰還することを許されていないんだろう」

 と、ゲッコーさんは言いつつ、面倒と感じているようで、渋面だ。

 接近戦が主体だから、手にはポンプアクション式ショットガンである、レミントンM870、通称ハナマルで応戦。

 ダァンと音を立てれば、ハンドグリップを前後に往復させて排莢と装填を行い、二射目を撃つ。

 至近で見舞われるオークは後方に吹き飛ぶ。流石はショットガン。ストッピングパワーの王様だな。

 毎日のように繰り返される宴に耽る人々を余所に、俺は約束どおり、ゲッコーさんから銃の指南を受けた。

 が、未だに銃は握らせてくれない。

 もっと、練習しないと駄目なようだ。


「王都で指揮官を倒した実力。頼らせてもらうぞ」


「はい」

 接近してきたオークに対しては俺が対応。

 今はまだ銃を手にする事は出来ないが、俺には刀がある。

 今まで俺を救ってくれた、信頼の置ける刀の柄を搾るように持つ。

 罪悪感は感じるが、躊躇は味方に累が及ぶと心底で言い聞かせてから、振り上げた鉈に対して胴斬り。

 オークは力なく倒れ込む。


「ゲリラにはナパームだ。ベル、石器時代に戻せ」


「いやいやゲッコーさん。キルゴア中佐サーファーの名言を言いたいのは分かりますが、原生林を消失させるのは駄目ですよ」


「言っている事は分かりませんが、承服しかねるのは理解できます」


「二人とも、随分と自然保護精神の意識が高いな」

 自然は大事ですから。温暖化とか大変だから。

 死んで学んだ事もある。

 徹夜後の、真夏日の中を行動しては駄目。朝からうだるようなあの暑さ。あれはきっと、温暖化のせいだ。


「くるぞ!」

 一言ゲッコーさんが言えば、俺の頬に風が走る。

 横を見れば、木にビィィィィィンって、矢が突き刺さって振動している。


「あぶねえ……」

 オークの丸太のような腕から放たれる矢は絶大だ。

 普通の弓を使っても強弓に早変わりだな。

 矢をつがえようとしているところをベルに燃やされる。

 ベルもできるだけ自然を破壊しないように心がけているようで、野球ボールくらいの大きさの炎を見舞っていた。

 直撃すればそこから全体を燃やし尽くす。

 しかし、ゲッコーさんの言やよしだ。こいつら死兵だよ。

 上に対して絶対服従なのか、それとも報奨が莫大なのかは分からないが、次々と湧いてくる。

 ベルも殲滅する広範囲型の炎が使えないし、このままだと数に押されそうだな。

 ピンチって気持ちは一切無いけども。

 囲まれているけど、こっちが優勢だからな。

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