PHASE-883【勝手に進んで行くね……】

『まあ、着実に強くなってきているんだから、ぅんぐ、今度は強敵としっかり戦って勝利しなさい。んぐ』


「ポリポリポリポリなにくとんねん!」


『あら、佐賀県民が関西弁とか似合わないわよ』

 強者としての余裕なのか、この激戦のCチャーリー地点で余裕の菓子食い。

 ポリポリとボリボリといった咀嚼音からして――、


「柿ピーか」


『正解』

 死神が柿ピー……。

 休日は一人でゲームしながら柿ピーとビールって姿が直ぐに想像できてしまった。

 可哀想な死神だな。

 美人だから余計に悲哀が漂ってる。


『そっち行ったわよ』


「ああ、分かったよ」


『ちょっと!? 何なのその穏やかな口調。急にどうしたのよ?』

 俺が暇な時はコイツともっと遊んでやろうと思ったわけですよ。



 ――――翌日の謁見の間において、王様に家臣団。諸侯。そして、玉座の横には公爵。

 そういったお偉いさんの視線が集まる、玉座に対面する位置に俺たちが立つ。


 先生からの報告では、要塞内にて反抗していた兵士たちは、公爵がこちらに敗北宣言を行ったというのを知れば、予想通り素直な投降。

 むしろ馬鹿に付き合わされた今回の戦いに厭戦ムードだったそうで、攻撃に対して積極性もなく守勢重視だったという。

 そのお陰で死傷者の数が極端に少なかった事は喜ばしかった。

 厭戦状態でも一応は戦う姿勢を見せるだけ偉いし、その気骨さは今後の魔王軍との戦いで頼りになるのも確かだ。

 

 隠れ潜んでいた傭兵団もS級さん達からは逃げることは出来ず、ガリオンや二枚看板が捕らえられたことを知り、あっけない投降。

 これによって要塞内の驚異はこれまた予想通り、昨日のうちに全て片付いた。


「素晴らしい」

 と、王様は満足そうに一言。

 でもまだこの要塞内で残されている問題もある。

 公爵の処遇だ。

 普通に王様の横に立っている時点で、こっちサイドの重鎮みたいな感じを醸し出しているけども――――、


「蟄居をお勧めします」

 話が進んで行き、公爵に対する処遇を蟄居――つまりは自宅謹慎を提案する先生。

 隠居して政治に携われない土地に小さな屋敷をというのが先生の意見だったけど、王様からは恩赦の意見が上がり、間を取って公都の屋敷で謹慎処分となった。

 現状ミルド領は荒れているので、鎮圧はどのみち行わないといけない。

 そうなると公領に詳しい公爵の力も必要となるので、自宅謹慎が打倒だろう。

 公爵が爵位を返上し蟄居となれば、間違いなく次は自分がと覇を唱える者も出てくる。

 先生としてはそういった連中を一気に叩いて、ミルド領を平定するとも考えているようだ。


「いかがです公爵殿。陛下の恩赦を受けますか?」

 継ぐ先生に対して、


「私自身も隠居をするつもりであったのだが――その考えを改めたいと思っている」


「ほう、では爵位の返上はせず公爵に留まると?」

 先生の声には冷ややかなものが混じる。瞬時に謁見の間に緊張が走った。

 王様も恩赦を考えていたからか、この公爵の発言に対して、一瞬だったけど渋面へと変わったのが相対する俺からは確認できた。

 公爵がどういった答えを導き出すのか。

 野心か協力か。

 後者でなければ話がまた拗れそうだな。


「荀彧殿、このような状況で留まると言えば、私は愚息以上の愚者になる」


「後世の歴史家に笑われたくはありませんからね」


「さよう」


「――では?」


「爵位は返上するのではなく、譲りたいと思っている」


「ほう!」

 何かを悟ったようで先生は嬉々とした声を上げた。

 でもって――、先生と公爵の視線が同じ箇所へと向けられる。

 そう――、俺に……。


「中々に大胆ですね叔父上」


「ですが陛下。彼の者の活躍はそれほどに大きいと思われます」


「私は叔父上の考えに賛同しますよ」

 いやいや、なんで王様まで納得してんのさ。


「これは実に素晴らしい。予定以上です」

 先生も大喜び。

 あけすけに先生は本来の目的を口に出す。

 公爵に爵位を返上させ、領土没収。抵抗勢力を排除しミルド領を素早く平定。

 ミルド領にて支配した貴族達に推薦状を書かせ、新たなミルド領主として、俺に候の位を与えさせて統治させようと先生は考えていたそうだ。

 

 話を蒸し返して領地を欲したり、悪者みたいに立ち回っていたのは、自分という存在がミルド領の者たちにとって恐ろしい存在であり、それを抑止できる存在が俺だというのを広く知らしめる。

 ミルド領の諸侯たちは俺の庇護下に入り、先生の驚異から守ってもらうような行動を起こすと推測。

 自分たちを守るために、必然的に俺をミルド領の統治者として権力を強め、先生を牽制させるというところまでが計画だったようだ。

 ミルド領にて先生は悪役になるつもりだったらしい。


 しかしそのような芝居を必要とせず、計画以上の爵位を得ることが出来るなら話は別。


「ですがそうなると、主には王家とのつながりを持ってもらわなければなりません」

 公爵位はこの世界だと王族の血縁でないと得られない地位だという。

 なので俺は養子として公爵の子――ではなく。孫となるようにとの事だった。

 まさかの異世界で華族になるという事なのか。


 だがしかし、いきなりの話に俺はついていけない。

 なんで俺が養子なんだ? 公爵の孫ってなに?

 頭が疑問符によって支配される。

 だというのに、俺の周囲ではノリノリで話が進められていくという光景。

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