PHASE-884【ご決断を――じゃないよ……】

「ちょっと待て。俺は政治面で問題が発生しても対応できませんよ」


「だからこそ私がいます」


「いや、先生には王都でも頑張ってもらわないといけないですし。そもそもが俺は勇者なので、ずっと領地にいるわけにもいきませんよ」


「だからこそ私が支えたいのだ。荀彧殿の言葉を借りるなら傀儡としてな」

 公爵の表情は生気に漲っていた。

 むしろ俺を傀儡にするかのようにも聞き取れるよ……。

 立ち直った王様みたいだよ。

 これもあれなのか? 先生のユニークスキルが原因なのか?


「でも、なぜに俺?」


「勇者であり、四大聖龍リゾーマタドラゴンの二柱に認められている時点で適正であろう。この場にて神にも等しい存在に認められている者は他にはいない。神に等しい存在に認められている者にとって、公爵位など些末な称号ではあるだろうが」

 その些末な称号が、広大な土地を治める力を有しているんですけどね。


「いや~私の思惑以上になってくれて最高の結果です。悪意のままにくだを巻きましたが無用でしたね。ミルド領の全てを渡して欲しいとは言いましたが、こういった結果になるとは!」

 先生が興奮している。

 当初、画策していた侯爵ではなく、更にその上の公爵の位を俺が得る事になるというのが大層に嬉しいようだ。

 三国志では、曹操が王になるってのには反対してたんだけどね~。

 俺が公爵になるのは反対しないんだな。まあ、これ以上は上るなって事は言いそうだけどね。


「いやでもね……」


「どうしました主?」

 俺のリアクションが薄いからか、珍しく先生が不安な表情。

 何を拒む理由があるのか。

 最高権力に次ぐ権力を有するとなれば、様々な力を得ることが出来る。

 勇者としてだけでなく、政治面においても強い発言力と力を持つようになれば、未だ日和見をしている諸侯に対して圧をかけることも出来る。

 それにより大陸に住まう人間達の力を集約するということも可能となる。

 力を一つにしなければならない時には勇者としての名声や徳だけでなく、王に次ぐ権力を得て王と共に行動する事で力を示し、一つとなるというのも大事。

 先生が俺に熱く語る。俺を絶対に公爵にしようという思いが伝わってくる。

 俺だってこの世界に住んでるから、人々が一つの目標に向かうのは大事だとは分かっているんですよ。

 分かっているんですけども――偉くなるってことは、つまりは面倒くさいことも増えるって事だよね。

 もちろん俺には有能な方々がいるから大丈夫ではあるんだろうけど、肩書きが公爵とか肩こりそうなんだけど。


 一般人が勇者ってだけでも気が重いし、何よりも俺が勇者と名乗っても大半がまずゲッコーさんとベルに目を向けるしな。そんな男が公爵て。

 しかも現公爵が俺の爺ちゃんになるって事なんでしょ。

 元の世界の爺ちゃんがこれを知ったら嫉妬しちゃうよ。俺の事が大好きだからね。


「なんです嫌なんですか?」


「嫌というか、まだ心の整理が出来てないんだよ」


「勇者だというのに情けない。肩書きが一つ増える程度で臆するとは」


「ぐぬぅ……」

 たまにコクリコが姉御感だしてくるよね。


「分かりました。ならばこの私が公爵を継ぎましょう」

 と、まったく分かっていないコクリコが公爵の前で無い胸を反らせば、


「ハハハ。後で飴を買ってあげよう」


「なにおう!」

 公爵にあしらわれている。

 でもって、シャルナとリンに拘束されて後ろに下がっていく。


「心配は無用だぞ勇者殿。私が助力する。顔も利くからな。政治においては私が担当する。勇者殿は今まで通り好きにやってくれていい。ただ公爵という位を私から引き継ぐだけだ。やることは今までと変わらない。公爵よりも勇者を優先してほしいからな」

 そう言ってもらえると少しは気も楽にはなるんだけども――。


「主。ご決断を」

 ズイッとイケメンが真顔で接近。

 女性なら最高のご褒美なんだろうが、俺としては怖い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る