新公爵

PHASE-882【アップなし】

「久しぶりに柔らかいベッドで横になったような気がする」

 俺に用意された部屋でゆっくりと横になる。

 要人用の部屋なんだろう。天蓋つきの立派なベッドがあるワンルーム。

 要塞内でこれだけの部屋を一人に割り当てるとか……。本当に戦略拠点としての機能美が心配になるね。

 俺でこれだからな。

 王様や貴族の面々だって俺と同じかそれ以上だろうし、ベルやゲッコーさん。コクリコ、シャルナのパーティーメンバーも同様に準備されているだろう。

 リンにいたっては王様が自身に割り当てられた部屋をと勧めていたな。


 なぜそこまで魔導師の女性に恭しいのですか? と、公爵が王様に質問すれば、太祖の時代の英雄だからです。と、返す。

 それを知った途端に公爵も恭しくしていた。

 リンってやっぱり凄いんだな。

 パーティーメンバーにこの世界の偉人がいてくれるのは自分の事のように嬉しかったりする。

 

 嬉しかったのはそれだけじゃない。調度品が何一つ略奪されず残っていたことだ。

 ギルドメンバーも兵士たちも規律よく行動してくれた証拠。

 俺も王様もしっかりと報酬で報いないとな。

 今回、冒険者たちにとって目玉となる報酬は、断空からせしめたバニッシュリッパーかな。

 流石に緋緋色金の剣は公爵家の家宝って事だったから、後で公爵に返さないとな。

 返すと知ればギムロン辺りが嫌がるだろうけど。

 家宝を返しつつ、それに見合うだけ金銀財宝を戦勝側として戦争賠償でがっぽりと頂きましょう。

 その中にはギムロンの気に入るアイテムなんかもあるかもな。

 

 ちなみに俺も含めた皆が忌避した馬鹿息子の部屋。

 内装を見たけど、謁見の間同様に要塞とは思えない奢侈な部屋で、無駄に部屋数も多かった。

 あんな場所では誰もゆっくり出来ない。目がチカチカするからな。

 何より、あいつが呼吸をしていた場所だと想像すると悪寒がする。女性陣なんてとくにだろうからな。

 奢侈な部屋は要塞には似つかわしくないとの事だったので、一段落したら王様が全て撤去すると言っていた。

 当然だよな。


 ――いろんな事を頭の中で巡らせながら、ベッドで仰向けになり天蓋を眺めつつ、


「にしても――だ」

 なぜだ。俺は今回かなり頑張った。

 なのになんでプレイギアからテッテレー♪ が鳴らない。

 せっかくの休息。一人になった事だしベルのクラーケン動画を見るのもいいが、要塞にいる以上は即応できる状態じゃないといけない。

 急に部屋に入られて、にやけ面を指摘されたり、前屈みで動けないという情けない姿は見せられないからな。

 なにより聞きたいこともあるから、


「久しぶりにやるか」

 プレイギアを取り出してコンバットフィールドを起動。


「ふっ、案の定いやがる」

 死神ならぬ暇神め。

 招待メッセージを送れば高速にてパーティー作成からの招待が届く。


「よう。ずっといるのか」


『たまたまだから。仕事が一段落したからいるだけだから』


「ふ~ん」

 久しぶりに俺がインしたのが嬉しいのか、随分と明るい声だなセラの奴。


『はよ』

 催促するあたり、俺以外とはパーティーを組むことが出来ずボッチでプレイしてんだな。

 マップはOperation Shelfか。狭いマップでプレイヤーのスキルと立ち回りだけが物を言う、実力至上主義のガチマップ。

 途中参加でセラの分隊に入る。


『さっそくCチャーリーを占拠しに行きましょう』


「はいはい」

 最大の激戦地である拠点で無双する暇神に、


「ねえ、俺って今回かなり活躍したんだけど、小気味の良い音が聞こえてこないぞ」


『貴男に対するレベルアップは評価によるものだからって以前に教えたでしょ』


「だから活躍したぞ」


『確かに活躍はしたわね』


「だろ」

 だったらなんで上がらないんだよ。

 でもってなんでストレンクスンやビジョンを使用しているのに俺のエイム力は向上しないんだよ……。

 いや、向上はしている。がしかし、やはり天界での転生待ちの面々の実力が廃人すぎるんだよな……。

 以前にも増して苛烈に攻めて来やがる……。

 上手すぎるプレイヤーの動きって、変態なんだよな……。


『活躍したとしても、このコンバットフィールドと違って、そっちの面子は貴男よりも格下ばかりだったじゃない。それじゃ評価が上がるわけないわよ。こっちの世界で一位を取った方が評価が上がるかもよ』

 天界廃人たちの跋扈するオンラインゲームで一位とか無理ゲー……。


「ガリオンは強かったんだけどな」


『唯一の強敵だったみたいだけど、それでも貴男の能力の方が全てにおいて上回っていたからね~』


「うぬぅ」


『でも凄いじゃないの。周囲の味方はともかくとして、貴男は対人間となると驚異はほとんどいないわよ。自力で俺TUEEEEEになってきてるわよ』


「いや、本気で言ってる?」


『あら淡泊』

 周囲の味方はともかくって言うけども、その周囲の強さとどうしても比較されるし、俺自身も比較するからね。

 まったくもって俺TUEEEEEって思えないよ。

 

 二枚看板とかを倒した時は擬似的な優越感はあったけどな。

 その後のガリオンで現実に戻されて、ベルで実力を思い知らされた。

 そんな俺が俺TUEEEEEなどと思えるわけがない。

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