PHASE-881【残った者の責任】
「素晴らしかったぞトール」
ここで主賓席から王様が降り立つ。
「無茶をしますね」
「無茶をするトールには言われたくないぞ」
王様もベルの強さは知っているからな。
従者に勝てないというのを把握しているのに、それでも俺を勇者という位置に立たせてくれている王様は優しいね。
俺が王様なら間違いなくベルを女勇者にして、六花のマントを与えるのにな。
「本当に見事であった勇者殿。ただ――相手があまりにも悪すぎた。次元が違う。美しさと強さを兼ね備えたベルヴェット女史は天からの使いなのではないのですかな? ならば人中の勇者であっても勝てないのは仕方がない」
ここで公爵も闘技場へと降りてくる。勿論、階段を利用して。
「口巧者のようで」
「いやいや、本当の事を口にしたまで」
ベルと公爵が笑みでやりとり、そのまま公爵が再度、俺へと顔を向ければ、
「残念ではあったが勇者殿も剛の者。人の中では最上に位置するようで」
「え? そうですか」
「私が知る限りでは」
「だったら申し訳ないですけど、公爵は狭い世界で生きてますよ」
はっきりと言えば王様が目を見開いて驚く。
叔父に対して大それた事を言うといったところか。
でもさ、実際にそうじゃん。
この世界の人間と比べたら俺もそこそこやれるようにはなったとは思うよ。
でも俺の周囲は、天の使いでもない歴とした人間であるベルに、ゲッコーさんもいれば高順氏もいる。
S級さんなんて百人もいる。
俺はこの面子から見たら下の下だからね。
「下を見ずに上を見続ける。自分に驕ることなく精進する姿勢。やはり勇者殿は勇者と成るべくして成ったのだろう。そしてこの私に正面から物が言える胆力もお見事」
ただただ本心を述べただけだけどね。
前王の弟であり、前王と共に活躍した賢人に対して正面から述べる事は難しいというのは、王侯貴族を見ていれば分かるけど、そこら辺の胆力はベルやゲッコーさんで鍛えられている。
口に出すと不遜になるだろうけど、チート二人と接していれば、ほとんどの存在が小者だから。
お陰でお偉いさん相手でも緊張しない。
不遜な返しだったかもしれないけども、なぜか公爵の俺に対する評価はいいもののようで、俺を見つつ満足げに頷いていた。
まるで好々爺のようでもある。
もっと冷酷な人物と考えていたけども、存外、温厚な人物なのかもな。
政治屋としては豪腕を振るうけども、孫には甘いってタイプの人物かもしれない。
――――。
「では、エキシビションも終えたことですし、本日はお開きです。要塞内にて反抗勢力が隠れている可能性もありますので、捜索班に合流する方々にはもう少し励んでいただきたい。それ以外は要塞内でゆっくりと休んでください」
先生が締めの挨拶。
反抗勢力っていっても、公爵が出張った時点で兵士たちが抵抗をやめるのは必至。
抵抗する者たちがいるとするならば、弱卒の傭兵たちからなる残党くらいだろう。
現在ここにいない一部のS級さんやギルドメンバーに、諸侯が捜索班として活動しているそうだ。
S級さんが出張ってる時点で制圧と捕縛は時間の問題。
更に、駄目出しとばかりに観客席にいたS級さん達も消えていた。
今日中に制圧と捕縛が完了するのは確定。
それが終わり次第。この要塞は完全に王サイドの拠点となる。
これによってこの北伐――、馬鹿息子ことカリオネルへの折檻を終わらせることが出来るわけだ。
難癖をつけてきて、会談にも成らなかった会談を行い。自身の配下である騎士を処刑。
北へと王軍が動き、渓谷、糧秣廠、麓から要塞。
なんとも長かったよ……。
勝って終われたことを良しとしたいが、生き残ることが出来たという事は、反面、戦いで死んでいった者たちもいるという現実。
戦で亡くなった方々。俺たち――俺が指示して奪った命。その全てに冥福を祈らせてもらう。
奪っておいて手前勝手だろうけども、残った者たちはその人達の命が無駄にならないような生き方をしていかなければならない。
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