PHASE-347【銘打つ】

 まあいい。二人はいいとして、


「先生はなにかあります?」


「私ですか? う~ん、そうですね」

 先生には二人と違うセンスを披露して頂きたい。

 ギルド名も先生のアイディアからだし。要塞の名付け親でも有るんですから期待していますよ。

 先生が腕組みをして考えに耽るその間にも、周囲では自分のアイディアを押すコクリコに、無銘でいいとベル。新たなネーミング案を出そうとするシャルナ。

 三人娘の丁々発止だ。


 三人が主張を述べる近くで、どうでもいいとの意見だったゲッコーさんが、小声で何かを呟いているのが目に入った。

 なんだかんだで名前を付けたいんだろうな……。


 皆の発していく言葉を追いかけるようにして、ゴロ太が首を忙しなく動かす姿は愛らしい。

 ゴロ太を眺めるのは俺だけでなく、壁に体を預けている高順氏もゴロ太を眺めていた。

 でも眺めるだけで輪には入ろうとせず、黙して語らずのスタイル。


 ここは白熱する皆の弁を落ち着かせるためにも――、


「ゲッコーさん。やっぱり何か言いたいんでしょ」

 先生に振って申し訳ないが、ここは案がありそうなゲッコーさんに、熱くなる場を冷やしてもらおうじゃないか。

 是非ともクールで格好いい名前をお願いしたいね。


「いや、俺は――」


「まあそう言わずに。どうぞ言ってみてくださいよ」


「そうか。じゃあ!」

 やっぱり言いたかったんだな。顔がほころんでいるよ。

 位階でもそうだったし、名前をつけるのが先生同様、好きなんだろう。

 コホンと嘘くさく咳を一つすれば、


「ボルカニック・インペリアル・エッジ・マークNineというのはどうだ?」

 ――…………。


 ――………………。


 ――……………………。


 凄いよ……。熱を冷ますようなクールなネーミングを期待してたのに、まさか時を止める事が出来るなんて……。

 流石は伝説の兵士。時間操作まで可能とは……。全くもって尊敬は出来ないですけども。


「「「「…………だっさ……」」」」

 時が動き出すと同時に、皆して声を合わせてしまった。

 なんとその中には先生も含まれているというね。それくらい酷かったからね。

 特例としてコクリコだけが、ネーミングに琴線が触れたようで、目を輝かせていた。

 同じタイミングで発せられた【だっさ】の言葉に、ゲッコーさんは後退り。


 とりあえず俺が知りたいのは、Nineって部分。

 Nineってことだから、1から8の所在も知りたいよね。

 多分、理由もなく9って数字を口にしただけだと思うけど。

 何のことはない。この人が図抜けて中二病を煩っているってことだ。

 皆して可哀想な人を見る目で見て上げれば、


「なんだよ……」

 想像通りのギヤマンハートだったらしく、シンクロ発言を受けて、部屋の隅っこでふさぎ込んでしまった。

 俺に振られたから言っただけなのに。と、ぶつぶつと言ってる姿は哀愁に満ちていた……。


「で、結局はどうするんだ。こんなものさっさと決めてしまえ」

 催促してくるベル。

 正直、ベルの無銘ってのが無難な気もしてならない。


「陥陣営殿はどうです」

 先生。あえて自分では名付けようとはせず、高順氏に振る。

 これは話を振ることによって、輪に入れようとする手だな。お節介なクラス委員のような手法である。

 曹操麾下の存在に問われてもと、すげない態度だが、ゴロ太が期待をした視線を送っていたのが効果的だったのか――――。


「聞いていれば、それは火龍なる存在から賜ったものなのだろう。不可思議な炎の力も有している。火龍の残り火のような力なのだから――――、残火ざんかではどうか?」

 ――――!


「おお! おおっ!」

 いい! 凄くいい! 俺の中二心をくすぐるネーミング。

 ロングネームも好きだが、やはり短いのもいい!

 シンプルにして、ちゃんと火龍の事を踏襲しているのが特にいい!

 ベルの無銘も良かったが、俺審査においては、残火これには勝てない。


「高順氏! 素晴らしいよ高順氏!!」

 よきネーミング故に、興奮気味に両手で握手をする俺。

 些か面食らっているが、口端は緩んでいた。

 残火という名。コクリコも納得とばかりに鷹揚に頷いている。素直に格好いいと思ったようだ。

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