PHASE-346【銘を決めよう】

「あの、満足でしょうか」

 言葉を返さなかったから、些か不安な表情のワックさん。

 俺の表情を見れば不安になるなんて事はないだろうに。

 これで満足いかないとか言えば、どんだけ勘違い野郎だと思われることか。


「頭に大をつける満足ですよ」

 やはり、口には出さないといけないな。

 言われてやっと、ワックさんも心から笑んでくれた。

 そうだよな。火龍の鱗を加工しないといけない重責を背負わせてたんだもんな。顔に出すだけでなく、ちゃんと言葉にしないといけなかったな。


「ありがとうございますワックさん」

 再度、謝意を述べてから、典雅な一礼。

 心から感謝を込めての一礼だ。


「本当に良かったです。ところで――――」

 破顔となったワックさんが言葉を続ける。

 心なしか体が弛緩している。重責から解き放たれたからな。

 気分も体も軽くなったからか、軽い調子で継がれたのは、


「折角ですので銘を」

 とのこと。

 銘か。確かに大事な事だ。後の世で【勇者が使用していた伝説の刀】って事で伝えられていくであろうからな。

 数多の魔王軍。幹部、そして魔王を倒した。という予定の刀だからな。変な名前だけは絶対につけられない。


「さっさと決めてください。覗き魔でいいでしょう」


「ゴメンだねそんな名前。しつこくて悪いが、お前のは見てない」

 そもそも覗き魔じゃなくて、覗き魔ラインブレイカーだし。格好良く言ってくれなと困るよ。

 コクリコの馬鹿した言い様に対してカウンターを見舞ってやれば、


「くぅぅぅぅぅぅぅ――――。こちらには非が無いはずなのに、その発言には悔しさだけがこみ上がってきますよ」

 非が無いとか。俺の挑発に乗って、仕切りに穴をあけたのはお前だけどな。

 だがこの話はここで強制的に終わらせたいね。

 じゃないと、あの時をお思い出したベルとシャルナが、冷たい目線を俺に向けてくるからな。

 俺はこれ以上、殴る蹴るの暴行を受けるのはごめんだ。

 

 なんか格好いい名前ってないもんかな~。俺の中二病が炸裂するような名前。

 真紅の鞘だからブラッディなんちゃら――――。

 火龍は神のような存在のでもあるから、古くからいるとして、エンシェントなんちゃら――――。

 あえての横文字だが、しっくりこない。


 柄の作りから日本刀をモチーフにしてくれたんだろうけど、そもそも玉鋼じゃないから日本刀とは似て非なるもの。

 横文字でもいいとおもったが、デザイン的にやはり漢字がいいような。


「ふむ~ん」


「何をそんなに考える必要がある。適当につければいいだろう」


「ベルさん。これは大事なことなんだ。後世の歴史家たちに、ダサい単語を口にさせたくないという、俺の優しさを分かってほしいね」


「別に勇者の刀で良いだろう。あえて無銘にするのもいいと思うぞ」

 なるほど無銘ね。確かに格好いいかもしれない。

 無銘なのに名刀。うん。俺の中二心がくすぐられるな。


「いえ、名前は大事ですよ」

 と、ここで覗き魔とかいうセンスの無い発言をしたコクリコが、またもズイッと俺たちに一歩足を進めてから述べる。


「魔眼刀ってどうです?」


「なんだよ魔眼って? なんにもかかってねえよ」


「覗き魔の眼ですよ」


「しつこいぞ。妖怪ツルツルペタペタ」

 その話は止めろ。スタイル抜群たちが怖いんだからな。

 こき下ろすように新しい呼称をプレゼントしてやれば、


「よし、表出ろ」

 さっきのと含めて、妖怪ツルツルペタペタ発言でとうとうエンレージが溢れだしたのか、ヤンキーみたいなことを言い出したよ。

 徒手空拳だとしても、今の俺に勝てるかな? 火龍装備を着用したこの俺に。

 ピリアに火龍装備。最早、お前のシャイニング・ケンカキックは完全に通用しなくなった。悔しかったら本物つれてこいやエー!


「じゃあさ、シルフィードってどう?」

 シャルナのアイディア。

 流石はエルフだ。風の精霊の名前を出してくる。まったくもって火龍とは関わりがないよ。

 風龍ならよかったんだろうけどさ。俺に鱗をくれたのは火龍だから。なので却下。


「ゲッコーさんは」


「そんなもんは振って斬れればなんでもいいだろ」

 おっと合理的な回答。

 おかしいな。以前のゲッコーさんなら何かしら言うと思ったんだが。

 いや――――、ベルもだ。無銘とか言ってたが、もしかしてこの二人、以前のギルド名のアイディアを俺が却下したことで、言いにくくなっているのだろうか?


 あの時は、自分のゲームの組織名だったり、帝国軍の遊撃だったりとあり得なかったからな。

 俺にツッコまれるのが嫌だからこその回避と見ていいだろう。

 

 意外とこの二人、ギヤマンハートだな。

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