PHASE-348【ボッと顕現】

「トールがそれでいいなら、いいんじゃないかな」

 コクリコに続いてシャルナも納得。

 高順氏の評価が、一気に上がったって感じだな。

 銘のおかげで輪の中に入ってきてくれたような気がする。

 

 反面、伝説の兵士は面白くないとばかりに、苦虫を噛み潰したような表情になっているが、まあ、あのネーミングで拗ねられてもね。

 

 こうやって輪に入るように仕掛ける先生は流石です。


「外にて残火を試してみてください」

 名前は確定したとばかりに、ワックさんが銘を口にする。

 ワックさんのすすめで皆して外に出る。最後尾は拗ねているゲッコーさん。

 いい歳した男の見せる態度ではないぞ……。


「ボタンを押して」

 カシャンとせり上がると同時に抜刀術をしてみる。

 せり上がりの間隔が原因で、抜刀にラグが生じるかと思ったが、そんなことはなく、スムーズに抜ききることが出来た。

 

 六方向に広がる六花を模した鍔のデザインは西洋のものに近い。

 刀身は日本刀のような刃文。鍔は西洋風。和洋の混ざった素晴らしいデザインだ。


「お?」

 いま気付いたけど、縁頭ふちがしらにも籠手同様に透明度のあるオレンジ色のタリスマンが埋め込まれている。

 残火の力を引き出すためのものだろう。

 籠手と違ってサイズは小さい。

 籠手のが鶏卵サイズなら、縁頭のはウズラの卵サイズだ。

 このタリスマンに力を流し込むイメージと共に、【ブレイズ】と唱えてくださいとワックさん。

 本来のブレイズは、敵を火柱の中に封じる上位魔法とのことだ。

 イグニースで発動する籠手同様に、残火もネイコスによる発動のようだ。


 指示に従って、 

「ブレイズ」

 に継いで出たのが、


「ほう!」

 興奮した声だ。

 イメージだけなら、コクリコの殴る蹴るの悪意ある悪戯のおかげで習得出来たからな。

 刀に力を宿すイメージをすれば、残火に封じられた火龍の力とネイコスを媒介するタリスマンによって、力が解放される。


 火龍の鱗に封じられた力が顕現。刀身がボゥっと炎に包まれた。

 ベルの力みたいだった。

 ゴウゴウと猛り狂う音を刀が発せば、刃をギザギザ状にしたい衝動が芽生えてしまう。

 

「壱の秘剣みたいだぞ!」


「興奮しているが、その秘剣とやらを知らん」

 同じように炎を操るベルにぶった切られる男の浪漫。火龍を救う時は、二人の共同作業で終の秘剣もどきを使用したのに。

 でも俺の心は折れない。それほどにテンションが高いものになっているからだ。


「シャアァァァァ」

 なんて調子に乗りつつ、大上段から諸手でしっかりと柄を握り、それを絞りながら脇を締めて振り下ろす。

 轟音と共に炎が軌跡を描きつつ、周囲に熱風をまき散らす。

 凄いぞ。何かを試し斬りしたいぞ。

 妖刀に魅入られたような欲求が俺を支配しそうになる。


「フッ!」


「ギュン!?」

 俺がそんな気分に取り憑かれそうになった途端に、支配欲を祓うかのような、ベルからのありがたい蹴りが外側広筋に見舞われる……。


「目!」

 と、一言ですわ。相当に駄目駄目な目をしていたんだろうな。

 力を持って調子に乗ると、即座に折檻が来る。

 でもって、


「駄目だぞ」

 凍りつくような声音で背後に立つゲッコーさんという、恐怖のコンボが発動するわけだ。

 先ほどまでの拗ねていた姿は何処へやら……。

 この人達といると、間違った方向には行かないからありがたいよ。スゲー怖いけど。


「蹴られて目は冷めたが、試し斬りはしときたい。どの程度なのか知らないと、実戦で使えないからな」

 さっきの高順氏の突きでもそうだった。

 毎度の準備不足や、ピリアの発動を怠る馬鹿さ加減から脱却したい。


「では、岩よりも硬いアルマースドラゴンの鱗で作った、回転ノコギリのなれの果てを――」

 火龍の鱗を切断するために大量に使用し、役目を全うした回転ノコギリ。

 削り出せば使えることは使えるらしいが、折角なら堅牢な物で試しておきたいので、一枚をワックさんからいただく。

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