PHASE-349【正にバター】
立木に回転ノコギリのなれの果てを設置。
刃の部分でなく面の部分を俺の方に向ける。
「準備万端」
皆の見る中でとりあえずアルマースドラゴンの鱗の強度が強いのかどうかを調べるために、
「高順氏」
先ほど、ギムロンの刀を一撃で台無しにした一突きを見舞って頂きたいとお願いすれば、以外とすんなり受け入れてくれる。
やはり武人。ドラゴン――――竜の鱗となれば、試してみたいと思うようだ。
穂先を地面すれすれの俯角で留めた独特な構え。
「シッ」
小気味のいい呼気とともに、高速の突きが見舞われる。
ギャリンという金属の擦れる劈き音が耳朶に届く。
片目を閉じて渋面になる嫌な音。
さて結果は――――、
「お見事……」
俺が感嘆の声を漏らせば、
「う、そ……」
と、ワックさんが信じられないと続く。
驚く顔にかけられた眼鏡がズレるという、ベタベタなリアクションを見せてくれた。
許可を取ってワックさんは高順氏の槍を検分。
見る度、触れる度に信じられないを連呼する。ワックさんの見立てでは、高順氏の槍は、ただの鉄製の槍。
付け加えるなら、良く出来た鉄製の槍。
本来アルマースドラゴンの鱗は、鉄製の槍では貫く事なんて出来ない強度らしい。が、実際にそれを目の前でやってのけてしまった。
穂先には未だ、回転ノコギリが突き刺さったままだ。
「流石は、奇跡の人によりこの世界に呼び出された方。常識で考えてはいけない存在なんでしょうね」
という答えで、むりくりに解決しようとするワックさん。
「改めて」
穂先から引っこ抜いて再度設置し、刀を構える。
高順氏曰く、突き刺して断ち切るつもりだったが、それが出来ないほどの強度だったという。
腕っこきの発言を信じれば、試し斬りには十分な対象だ。
「行くぞ」
ブレイズと発し、刀身に炎を纏わせてから――、
「せいやっ!」
気勢の声と共に大上段から振り下ろした刀は、鱗に振れるとなんの抵抗もなく両断。立木は一瞬にして黒炭と姿を変えた。
「…………」
高順氏の突きを見た後でのこれだ。あれだけの突きを見舞い、穂先が鱗を貫いただけでも凄いと思ったが……。
技量で圧倒的に高順氏に劣るであろう俺の斬撃は、槍での突きなどまったくもって相手にならない、次元の違う一振りだった。
自分でも信じられないが故に、言葉を発するのを忘れてしまう。
絶句とは正にこの事なんだろう。
力を込めるイメージを止めれば、ボウッと炎が音を立て、空に向かいながら刀身から消えていく。
「な――――」
「――なんですかそれは!」
ようやく言葉を口にしようと思ったところで、コクリコの驚嘆に染まる声で遮られた。
いつもならイラッとするが、仕方がないことだろう。俺は凄い物を手に入れてしまった。
両断した鱗を見れば、切り口は熱で溶けている。
溶け方から見ても、刀身はかなりの熱を帯びていたのだろうが、使用者には温風程度しか伝わらない。
周囲は熱かったのか、俺から距離を取っていた。
俺が強い熱さを感じなかったのは、火龍の装備による加護が影響しているからだ。
斬った鱗の半分を新しい立木に設置して、今度は刀身のみで試し斬り。
――――結果は、鱗の切り口が溶けているか、綺麗な切り口になっているかの違いだけだった。
凄い。本当に凄い!
俺が手に握る刀は、炎を纏わせなくても、ドラゴンの強靱な鱗を容易く斬ることが出来る刀。
大抵の物なら俺は何でも斬ることが出来るようになったぞ。
「素晴らしいが。斬れすぎる刃は自分にも害を与えてくる事もある。そんな事にならないように、自分自身の精神を鍛えないとな」
「おうよ」
ベルが釘を刺す感じだが、俺は別にこの刀に魅了はされない――――。さっきは魅了されて外側広筋を蹴られたけども……。
最高の物を手に入れた高揚感を活かして、俺を魅了するのはベルだけさ。なんて事をサラッと言いたかったが、客観的に見ると、そんな男は気持ち悪い。
いくら凄い装備を手に入れてテンションが上がったとはいえ、そんなくさい発言をくさいと思わないで発言できる胆力は、まだまだない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます