PHASE-350【モフモフパワー】

「見事なものだ。今度はそれを使って戦ってみないか?」

 テンションが高くなっているところで、肝を冷やすような発言は止めていただきたいね。


「いえ結構。貴男を召喚したのは、貴男の力を借りたいからです」

 高順氏、好戦的な発言の割には笑んでいるから、冗談のつもりなんだろうな。

 真面目な人間の冗談は、冗談に聞こえない典型が目の前にいるよ……。

 

 ちゃんとした返事はもらっていないが、どうしても力を借りたい。

 チラリとゴロ太に目を向ける俺。

 愛くるしいつぶらな瞳と目があったことを確認して、


「ゴロ太も頼りになる正義の味方が増えると嬉しいよな」


「うん♪」

 ぴょこぴょこと跳ねる姿に、


「「可愛い」」

 美人の声と共に、歴戦の低音ボイスがシンクロする。

 前者はもちろんベル。後者はやはりと言うべきか、高順氏だった。

 この人はベル同様に可愛いものが好きなご様子。

 これはいける。ゴロ太の愛らしさで味方に付けることが出来る。


「ゴロ太は高順氏が仲間になってくれたら嬉しいよな」


「凄く嬉しい」

 ああ、可愛い。首を傾ける姿にキュンとする。声以外は完璧だ。


「うんぅ……。そ、そうなのか?」

 高順氏の足元で可愛く踊るゴロ太に、口元が緩みそうになるのを必死に堪えるナイスミドルが俺の目に映る。

 

 先生は武辺者の見せるその姿に、笑いがこみ上げてきているのか、俺たちとは反対方向を向いて、体を震わせながら口を押さえ、今にも噴き出しそうな笑いを堪えている。

 三国志の二人は、違う意味で堪えていた。


「まあ、この世界の事を見てから考えてもいいだろう。王佐の才がなぜこの世界にいるのかも気になるところだしな」

 よしよし。これはいい傾向だ。

 ゴロ太にサムズアップすれば、思惑は理解していないが、同様の仕草を返してきてくれる。


「会頭、副会頭」

 ここでカイルが馬に乗って参上。

 ギルドハウスの修練場で新人に師事をしていたようだが、そこに王城から使いが来たそうだ。

 で、カイルが俺たちの場所を教えれば、王様に連絡をと戻ったらしい。


「王城に行かれますか?」

 頷いて先生に返す。

 あ、そうだ。


「ワックさん。火龍の鱗から出た粉って機材に使う以外でも有ります」


「まあ、サイズがサイズですのでまだありますよ」


「カイルの段平にコーティングとか出来ます」


「可能です」


「え!? 何の話です? 火龍の鱗。コーティング――――え!? まさか会頭!」

 俺とワックさんの会話から理解したのか、声の調子が高くなる。高くなりすぎて、語末は裏返っているほどだ。


「そのまさかさ」

 いつもお世話になっているし、ギルドで先生が執務なら、現場で新人達を鍛えているのはカイルだからな。

 なんだかんだでカイルがいるから荒くれ達も纏まっている。

 俺たちが王都から離れても、メンバーがルールを守っているのも、カイルたち古参メンバーが励んでくれているからだ。

 中でもリーダー的な存在であるカイルには、特別なコーティングをしても問題は発生しないだろう。

 皆は羨むだろうが、カイルならと、嫉妬よりも称賛が多いはずだ。


「とりあえずカイルの段平は緋緋色金ヒヒイロカネで出来たレジェンダリ―クラスを超える代物になるだろうな」


「身に余る光栄……。ありがとうございます!」

 やはり冒険者だ。自分の得物がとんでもない物に変わるとなれば、有頂天になるし、感極まって涙声にもなる。

 

 本来だったら飛び級で位階が上がったシャルナと戦ってもらって、シャルナの実力を全体に見てもらう為の、当て馬にしてゴメン。というのも含めてのお礼と考えていたが、シャルナの位階が上がっても、誰も不満を漏らさなかったからな。

 

 むしろ、当然という空気が流れていた。

 

 ドッセン・バーグ氏の時も黄色級ブィからだったけど、不満は噴出しなかった。

 あの人の場合は、野良でも有名な冒険者だったみたいだから、皆が実力を認めてたようだ。

 力のある存在には、皆、純粋で包容な考え方のようだ。


 ――――喜びに支配され、相棒をワックさんに預けるカイルと工廠で別れて、俺たちは王城へ向かうため、いったんギルドハウスへと戻る。

 

 工廠前で前足を振るゴロ太に対して、些か寂しそうなベルと――――、高順氏。

 その姿を目にする先生はおかしくて仕方ない様子。

 まあ俺も一人でこの状況をテレビなんかで見てたら、腹を抱えて哄笑していただろうな。


 寡黙で、酒も飲まず、賄賂も受け取らない清廉潔白な武辺者は――――、可愛い物がお好き。

 

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