PHASE-351【噴水のある公園】
――――ギルドハウスに戻りダイフクに乗れば、ベルも久しぶりに黒馬に跨がる。
他の皆はギルドの馬車に乗り込む。
お金の流通による大通りのお祭り騒ぎの中をゆっくりとした速度で移動していれば、前方で人々が大通りの端の方へと移動し、道が開けていく光景。
次には片膝をついて礼を行っている。
この行為で、眼前の状況の原因がなんなのかは分かった。
「やめてくれ。畏まらないでほしい。普通にしてくれ」
って内容の大音声が一帯に響く。
快活だぜ王様。お歴々を従えて堂々と大通りを馬に乗っての移動とは……。
目立ちすぎだ。もし襲われたらどうするつもりなんだろうか。
その辺りは心配無用とばかりに、後ろに続く皆さんの、にこやかながらも隙を見せない警戒。
だからこそ、剛胆に行動出来るんだろうな。
ナブル将軍に――、なんだったっけ? 禿頭の伯爵様。確か狂乱の双鉄鞭だったかな? もともと武勇で名をはせたお歴々の警戒は大したものだ。
「ほう、素晴らしいな。最初に出会った頃とはまったくの別人たちだ。隙が無く、ほがらかな表情に隠された鋭敏さが、しっかりと伝わってくる」
ベルもお褒めの発言だ。
「おお、美姫にそう言われれば我々も嬉しい限りだ」
しっかりと聞こえていたようで、王様は破顔だ。
「これは生意気は内容を聞かれました」
下馬して頭を下げるベル。
「よいよい、むしろ美姫に褒められることこそ喜ばしい。なあ!」
王様が振り返れば、皆が笑顔で頷いて返す。
やはり男ってのは、美人には甘くなるようだな。
それにただの美人でもないしな。
美姫であって美鬼だから。むしろ頭を下げさせることが怖いのかもしれないな。 先日の王城では、ベルの話題の時に、様を付けてた人もいたし。
「今から王城へと行こうと思ってたんですが」
「そんなことをせずとも、我々から足を運ぶつもりだったのだが」
王様がわざわざ勇者に会うために、自ら動くってのはどうなのよ。
しかも大貴族からなる臣下を伴って。
街の中は必ずしも安全とは限らないんだから、王城で待ってればいいのに。
薄着だし。鎧的な物は着用してないし。
間者が忍び込んでいて、矢でも射られたらどうするつもりなんだろうか。
以前と違って、皆さん筋肉の鎧は纏ってますけども。
対処できるという自信があるんだろうな。
――――喧騒な大通りを離れて、住民の憩いの場である公園へと移動。
彫刻が見事な二十五メートルプールほどの広さがある素晴らしい噴水がある。王都住民のランドマークのような存在だな。
噴水の中央にあるオブジェの彫刻モデルは子供。背中に羽根があることから、天使だろう。
さらにその中心に女神像が立っていて、天使たちが舞っているかのように女神を囲み、手にする水瓶から水が流れ出る構造。
流れ落ちる水の下方には、花草をイメージした彫刻が施されている。
【豊穣の女神と天使たち】ってタイトルを勝手に考える。
「ここも以前のように美しくなった」
笑んだかと思えば、王様の表情は直ぐに暗くなる。
自分の不甲斐なさが民を苦しめる事になったと吐露すれば、臣下の皆さんは自分たちにも非があると述べる。
「本当にトールには感謝しかない」
「俺だけじゃないですけどね」
皆を見渡す俺に続いて、王様も俺に続く。
その最中で王様の視線がピタリと止まる。
「ん? 誰なのだ彼は? 新しい冒険者かな?」
やはり高順氏が気になるよね。
「新たに召喚した英雄ですよ」
「おお! そうか! これはまた頼りになりそうな御仁だ」
佇まいから直ぐにただ者ではないと思っていたようだけど、召喚された人物と知れば、いやはや得心がいったと、王様は高順氏に足を進め、指呼の距離にて――、
「お初にお目にかかる。よくぞこの世界の救済に来てくださった。感謝する」
と、深々と頭を下げた。
王様がそうするのだから、当然、臣下の皆さんも同じ所作。
「一武人に対し、国の主が頭を下げての挨拶、痛み入ります」
まあ主が呂布となると、頭を下げるって行為は、まず目にしなさそうだもんね。
典雅な挨拶には典雅にと、高順氏も王様に負けないくらいに深々と頭を下げた。
まだ未定ではあるけど、このまま高順氏には、俺たちと共に戦ってもらいたいところ。
「戦巧者との挨拶もすんだ。さて、トール」
「はい」
反転して俺へと目を合わせる王様は、噴水に設けられた階段へと腰を下ろす。
右手を胸元の高さまで上げれば、それを合図にしたように、臣下の皆さんも階段に腰を下ろした。
一番高い位置が王様で、そこより下の段から両サイドに臣下の皆さん。謁見の間と同様の位置取り。
で、俺たちに対して王様は、自分と同じ所に座るように促してくる。
断るのも失礼なので、お言葉に甘えて皆して座る。
だだっ広い階段だから、余裕で皆して座れた。
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