PHASE-1229【元ソロ故の目利き】

 粗暴ではあるけども、ドッセン・バーグって指導役として適任なのかもな。

 元がソロの出ってこともあって、他のパーティーとインスタントで組んで活動もしていたそうだからな。

 パーティーに合わせてどういった連携を取ればいいのかというのを熟知しているような人物。

 だからこそ新人さん達がどういった事に秀でているのかを見極める力もあるんだろうし、新人さん達にはどういった感じで接すればよいかも分かっているんだろう。

 

 その証拠とばかりに、コルレオンと新人の三人は、ドッセン・バーグを前にして恐れを抱いていても諦めるという事はないようで――、


「もう一度お願いします!」

 と、コルレオンが口にすれば、残りの三人も同様の内容を口にしていた。

 それが嬉しいのか、無精ヒゲをなでつつ厳つい顔に笑みを浮かべ、


「まずは大丈夫か?」

 と、コルレオンが十全かと問う。


「まったくもって問題ありません!」


「そうか。軽快な動きはいいが、一撃をもらっただけで軽々と吹っ飛んで動けなくなるのはよろしくねえな。もっと打たれ強くならねえといけねえ。もしくは――絶対に攻撃なんて喰らってやらねえって気概を体に憑依させて、素早い動きで相手を翻弄するこったな」


「分かりました」


「後な、馬鹿正直に正面からばっか攻めんな。なんのための小柄で敏捷な身体能力だ。虚を衝け虚を。お前自身がお前の個性を殺してどうすんだ。フェイント入れても正面からじゃ意味ねえよ」


「確かに――その通りですね」


「サシの時でも相手に対して、意外なところから攻めるって印象を植え付けさせなきゃいけねえ。それだけで相手は無駄なところまで警戒するからな。相手の集中を散らすってのがスピード型の戦い方よ。パーティーを組んだ時は、正面からの攻めはパワー型に任せる。で、そいつの一撃を必殺に昇華させるのがお前の戦い方になる。主役にはなりにくいが脇役ってのは大事だ。脇役が輝くから主役も輝けるんだからな」

 いい事を言うじゃないか。

 兵士と違ってどちらかと言えば冒険者ってのは我が強いと思う。

 だからこそ自分が決めるって欲求は、統率の中で活動する兵士よりも強いだろう。

 そこをしっかりと自制して、パーティー全体の為に活動するということが出来れば、クエストの成功率は上がるし、パーティーの生存率も格段に高くなることだろう。


 ソロで活動しつつも、他のパーティーと即席であっても連携の取れた行動が出来るだけはある。

 ぶっきらぼうに見えて、実際は繊細で緻密な性格なのかもね。


「おっと。まだふらついてんじゃねえか」

 即座にコルレオンの状態を確認してしっかりと支えてくれる辺り、優しい人物でもある。

 偏見を持たない思考へと切り替わったことで、ドッセン・バーグも精神面が成長しているようだ。


 黒色級ドゥブの少女がもう一度ファーストエイドをと言ったところで、


「いや、いい」

 と、ドッセン・バーグが断れば、腰部に下げた雑嚢へと手を突っ込んで、ゴソゴソと手を動かしてから何かを取り出し――、


「ほら」

 と、四方向に投げるのは――白磁の小瓶。

 同時に投げ渡すってのは地味なようで凄い技量だよね。

 白磁の小瓶はドッセン・バーグが指導していた四人の掌へ。

 気になったのは俺が使用している小瓶よりも更に小さいというところ。

 サイズ的に半分くらいの大きさになっていた。


「ファーストエイドは回復は出来ても疲労はとれないからな。ソレを飲め」

 と言うのだから、中身はポーションのようだな。


「「「「いただきます」」」」

 新人の四人にとっては貴重なアイテムなんだろう。訓練で飲むのは勿体ないと思いながらも先達の厚意をグッと呷る。

 量は半分だから効果はそこまで高いものではないんだろうけど、疲労を取り除く程度なら十分だろう。


 ――しばらく時間をおいてから、


「じゃあ始めるぞ。今度は四人でかかってこい。コルレオンはさっき言われた事を実践してみるんだな。三人もさっきの痛い経験を活かせ」

 今度は四人を同時に相手にしての指導か。熱心だね~。

 そんな姿を見せられるとね~。


「俺も熱心に取り組みたいもんだよ」


「会頭!?」

 ドッセン・バーグの前に立てば、やはり新人さん達に対するような態度は鳴りを潜める。

 手にした木剣をわざわざ腰帯に差してから直立の姿勢だもんね。

 

 そんな姿を目にすれば、新人さん達だって直立の姿勢になるし、周囲で座って見学をしていた面々も矢庭に立ち上がっていた。


 新人さん達と俺との対応の落差が激しすぎるもんだから、それを目の当たりにする新人さん達の方向からはゴクリと唾を飲む音。

 それが耳朶にまで届いてくる。

 俺を畏怖の対象で見てほしくないんだけど。

 まあ、威厳が出てきたと思えばいいのかな。

 エルフの国の新王を含めて、三人の弟子を持っているわけだから威厳があってもいいよね。

 

 調子に乗ると後で手痛い目にあうのは毎度の事なので表面には出さないけども。


「そんなに緊張しなくてもいいよ。俺としてはギルドに入って励んでくれているだけでも感謝なんだからさ」

 と、優しく微笑みを湛えながら述べれば、対面する三人は弛緩してくれる。

 やはりコミュニケーションは大事だね。


「どうでしたか、この連中は」


「おっかないのを相手に訓練を申し出るだけの気概がある時点で、成長の伸びしろは期待できるよね」


「ですから、これでも自分は優しい方だと思うんですがね」


「ないない」

 即答でドッセン・バーグに返してやる。

 俺の発言に賛同とばかりに、ドッセン・バーグには気付かれない程度に三人の新人さんが小さく頷いていたのが目に入る。

 ベルとゲッコーさんを除けば、ギルド上位に入るスパルタだと思うよ。

 

 だからこそ人は育つんだろうけど。

 

 デスクワークなら優しい人物に教わるのもいいだろうが、死と隣り合わせの冒険者となると、ドッセン・バーグのようなタイプが指導役を担うのは最適だろう。


「これからも厳しさの中に優しさもいれて教えて上げてよ」


「分かりました! それで会頭は視察を続けるので?」


「いや、ただの見学だよ。というかそれがメインじゃなくて、俺もしっかりと鍛練しようと思ってここに来てるわけだし」


「聞いたか新人共! 勇者である会頭でも常に鍛練を心がけているんだ。しっかりと見習うように!」

 と、ドッセン・バーグが発せば、三人だけでなくコルレオンや周囲の面々も快活良く返事をする。

 この厳ついおっさんは俺の行動に対して全てを肯定してくれそうな人物だな。

 だが、ヨイショも飾りっ気もない人物の本心からの発言は、照れくさくもあり嬉しくもある。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る