PHASE-632【駄目の見本】
「よし! このままバリバリとやっていくぜ!」
頭で考えた事を直ぐさま拇指や食指に伝える感覚をもっと鋭敏にする事で、素早いスティック操作とトリガー引きを可能とする。
「いいぞ! 俺はもっと強くなれる!」
――――ハハハハハハ!
――――――。
――――。
――。
「あれ? ト、トール様?」
「うん?」
「ひぃ!?」
なんだ? どうしたんだランシェルのヤツ。
シーツの交換なんかで入室してきたのかな?
俺としてはコトネさんとかサキュバスメイドさん達にお世話してもらいたいんだけども。
しかもノックもせずに――、いや、俺がイヤホンつけてたから聞こえなかったのか。
だとしてもなんで後退ってんだよ。
「あ、あの……トール様……。なぜこんな暗がりで……」
暗がり? ああ、確かにカーテンは閉め切っているな。
日の光がディスプレイに入り込んでイラッとして閉めたんだっけ。
熱中しすぎてトイレに行くときもずっとプレイギアを握っているからな。
しかし、勝つためとはいえ、ストレンクスンを常時発動している集中力ってのが中々に凄いな俺。
「フフ……」
「ひぃぅ……」
おっとストレンクスン使用によって上がったキルレを思い出して笑みを浮かべたら、ランシェルに怖がられてしまった。
暗がりのディスプレイからの灯りだけだけど、黄色い瞳がなんとも綺麗だな。
――……って、綺麗とか思ってはいけないな。ランシェルは男だから。
いかんいかん。なんかアレだな。意識がぼやけているな。
ゲームの時と違って集中力が欠けている。
「本当に……大丈夫ですか?」
「何を心配してるんだ?」
「表情が優れません。部屋からもまったく出ていないとの連絡もありましたし、食事も取っていないのでは?」
あまりにも部屋から出ないから、殆どの使用人さん達は、俺が外出しているとすら思っていたそうで、ランシェルはその間に寝室の掃除に来たそうなのだが、実際は俺がいるという状況だったそうだ。
「あの、目の下にクマができています。目も落ちくぼんでますし。倦怠感などございませんか?」
「なんだ? もしかして俺は精気でも搾取されているってのか?」
それはサキュバスや、インキュバス――――お前の特技だろう。
『あれ? 誰か来てる』
「ああ、うん。ちょっと頑張っといて」
「はい? 頑張る――ですか?」
「いや、ランシェルに言ってないよ」
「へ? じゃあ誰に」
不安な声になるランシェルは部屋全体を見渡して――、再び俺に顔を向け直す。
その表情は、更に不安なものに支配されていた。
いや、あれだからね。天界側と話しているだけだから。
――と言って、信じてもらえるかな?
などと思っていた矢先に。
「あの……失礼いたします!」
慌てて寝室から飛び出していった。
まったく、何だったのか?
まっ、いいか。
さてさて――、
「続きをやるか!」
『良いのかしら? ここはやめておいた方がいいと思うけど』
「何を言う。折角ストレンクスン使用での感覚を掴んできたんだ。止められないね」
考える事を素早く指先に伝達する感覚を得たんだ。
この感覚をしっかりと体に染みこませないとな。
天界の方々には、このまま俺のキルレを爆上げするための養分になってもらわないとな!
今までさんざっぱら俺をキルしまくったんだから、その分の返しは、利息をつけてもらわないと。
――――ずっと喋りながらプレイしているから喉が渇いた。
エードを飲んで喉を潤そうと思ったけど、そういえば既に飲み干していたな。
御代わりの催促が面倒くさい。
――…………見れば洗面器には水が溜まっているじゃないか。
リンがビッチャー用に成形してくれた氷結魔法が、溶けて水になったわけだな。
「……大丈夫だ。問題ない」
洗面器に溜まったその水を直に飲む俺は、この世界を救いに来た勇者。
いや~。怠惰ってるね俺。日本にいた時のダメモード全開だよ。
あれ? しかも俺、飯も食べてないな。
――……いつからだっけ?
「気にしたら負けだな。それに――」
ゲームが楽しく空腹なんてどうでもいい。
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