王族の湯治場クレトス

PHASE-162【嘘ってのは、ばれるもんさ】

 ――――で、


「コイツはまだこの状態なの?」

 一階の隅っこでは、長いすにも座らずに小さく縮こまっている、内弁慶のちびっ子魔法少女――――。

 まあ、あいつが大人しいのはいい事かもしれんな――――。




「さあ! クレトスへと出発です!」

 ハハ! 王都の門から外へと出た途端、大きく手を広げて、飛び跳ねる元気。


 うるさすぎるし、王都でギルドメンバーと実戦訓練を行って勝ちまくったとか、捏造すんなよ!

 見たことないぞそんな光景。お前が縮こまっている姿はずっと見てたけども。

 この騒ぎよう。やはり大人しいのはいい事だな……。

 

「さあ、乗った」

 拇指を立てて促すゲッコーさん。

 すでにハンヴィーの準備は整っており、左後部座席に乗り込む。

 

 広い空間でゆっくりとする俺と違い、隣では門を潜るまでは大人しかったコクリコがうるさい。

 

 いままで喋ってなかったその反動なのか、変にテンションが高い。

 

 俺の横には、ベルが座ってくれればいいのに。

 まあ、助手席の横顔を斜め後ろから見るのもいいけども。


「不快だぞ」


「あ、はい……」

 不快って単語は、結構、心を抉ってくるよ……。


 ――――ハンヴィーが走り出す。

 

 王都外周の木壁を越える時には、作業に勤しむ人達に手を振ってもらえた。

 

 車内に目を移せば、コクリコは流れる外の景色を楽しみ、ゲッコーさんはハンドルを握る。

 

 ベルは黙々と本を読んでいる。

 先生に頼んで、この世界の本を数冊、手に入れたみたいだ。

 

 俺と違って先生もベルも、この世界の情報を少しでも手に入れようとする事に余念がない。

 

 見習いたいが、本を開くと、自然と瞼が閉じる体質だからね。しかたないね。

 

 手持ち無沙汰だし、久しぶりにセラにメッセージでも送ってやるか。

 

 もっとメールを送っていいとかいう内容は無視してるから、怒ってるかもしれないな。

 それ以上に寂しがってるかな~。


{魔法が使えるようになったぜ}


「――っと」

 入力して送信すれば――。

 ピコン♪

 

 うわ……。

 本当に、ひくくらいに返信が早いな……。

 

 流石は暇神だな。


{知ってるよ。情報は入ってくるからね。しかし、いきなり最上級の魔法を覚えるなんて、チーターじゃないの? 異世界に行く前は、カンスト能力を得るなんて選択しなかったのに、最上級魔法を使用するとか、真性のチーターね。ナチュラルボーンチーターね}

 チーター、チーターと、文字がうるせえよ!

 

 そもそも、真性もナチュラルボーンも意味は一緒じゃねえか。

 重複してチーターって書くなよ。

 

 というか、返しが早いだけでなく、長文て……。なんだよその才能は!


{暇なんだな}


{暇じゃないから!}

 返しが早い時点で暇だって事だから。


{ゲームやってんの?}


{そうだけど}

 俺が頑張ってるってのに、いいご身分だな。流石は神様だよ。


{ソロ?}


{そうだけど}

 そっか~。やっぱりな~。


 ――――――――。


{ちょっと! なんで返信がここで途切れるの! たまたまだからね今回は! 普段はフレンドとボイスチャットで楽しくやってるから! パーティー作成すれば、すぐに満員御礼だから!}

 この文面からにじみ出る焦りはどうだね。


 完全にボッチじゃねえか。

 

 本当にフレンドがいるなら、いちいち言い訳じみた返信はしないもの。


{そうか~セラはやっぱりボッチだったか~}


{いるし! フレンドは一億くらいいるし!}

 あれ? 以前は一兆人とか返信が来たような……。

 

 嘘なんかつくから、数字でボロが出るんだぜ。死神様。

 嘘の仮面が剥がれてしまいましたよ。

 

 そんなに簡単に仮面が剥がれちゃったら、虚化体得は不可能だよ死神様。ハハハ――――。

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