PHASE-161【つくって○○ぼ……じゃないよ……ね?】
フフフ――、温泉地か――――。
ゲッコーさんから、スニーキングスキルをどうにかやって習得したいところだな!
大義名分の混浴とかだったら最高なのにな!
どうだい! 当初の目的が完全に頭から抜けてしまったよ。
あれ? 本当になんだったっけ?
――――そうだ! 鱗で武具を作るんだったな。
温泉にやる気が出ている俺の表情は、すこぶる生気に満ちていて、それを目にする王様たちは何を勘違いしているのか、勇者としてのやる気だと思っているようだ。
いい具合に勘違いをしてくれているね。
ここいらで軌道を修正しようか。
「ところで、村にいる鍛冶職人の名前は?」
有名人みたいだから、村で聞けば直ぐに分かるんだろうが、名前を知ることは大事だ。
王様は居住まいを正して、胸を張る。
そうしたいくらいに誇れる人物なのだろう。
「希代の職人。ちょっとした資材からでも、最高傑作を作り出す。天才の中の天才! その名は――――! ワック・ワック」
「ちょっと待て!」
何だろうか……。
嫌な予感がプンプンするぜ。
幼少期に、そんな名をした人物をテレビで見た事があるんだけども。
段ボールやら厚紙でおもちゃを作り出す、憧れの存在だった人の名前に似てるんだけども……。
ゴクリと生唾を飲み込み、一呼吸してから――、
「まさか、人語が堪能なクマとかいないよ……ね?」
「おお! 異界から来た勇者でも知っているとは! 流石はワック・ワック」
おんのかい!
やばいよ。怒られるやつだよ。
「伝説にして、ワック・ワックの師であるノップの跡を継ぎ、人語を話す不思議な子グマのゴロ太と暮らしている」
「色々と混ざってんな!」
「何をそんなに荒ぶっている。いや、荒ぶると言うより――――捨て鉢か?」
「ベルさんよ。ツッコミどころが多すぎるんだよ。多すぎて渋滞を起こしてるよ! ワック・ワックとか。そんな名前してるんだから、何でも作れて当然だよ! 不可能を可能にする奇跡の人だよ! 本気出したら無から有を生み出しそうだからね!」
「なぜそこまでムキになる。いい事ではないか。それだけの力を有しているのならば……」
なんて言いつつも、いつになく俺が猛っているからか、ベルは後退りしている。
いい事とか言ってるけども、腑に落ちねえよ。
なんなの? 俺の知ってるあの人は、異世界から日本に来てる能力者なの?
「勇者よ。ワック・ワックに会うのだ。瘴気に汚染されていない事を信じて、トールよ、ワック・ワックに会うのだ! ワック・ワックに!」
王様、名前を三回も口にしたけども、俺はツッコまないぞ…………。
「さっそくクレトスですか。ゆっくりと出来ませんな。主」
「日々、活躍している先生に比べれば」
「いえいえ、主と比べると楽なものです」
ワック・ワック連呼から一日が過ぎた。
ギルドハウスの一階にて、椅子に腰を下ろして、対面の先生と語り合う。
雑多な音も混じっている。
いまは昼。
酒場としてではなく、昼食を取るために、ギルドメンバーが食事を楽しんでいる。
まだまだ寂しい食事だが、レゾンとの道も繋がった事で、魚が今度から食べられるというテンションで、味気ない食事を楽しんでいる。
ぶっとい首に、顔にも傷が目立ち、豪快な笑いの輪唱。
見れば見るほどガラの悪い、荒くれ者集団だな。
戦いになれば、頼りになるからいいんだけども。
俺を見れば、「会頭」「会頭」と、頭も下げてくる。
マナーは比較的にいいんだよね。
まとめ役をカイルにしたのも良かったんだろう。
流石は先生。素晴らしき眼識である。
「短期間でここまで統制がとれるようになるなんて」
「全ては主のため。いずれ、主にもっと喜んでいただけるよう励みます」
本当にイケメンですよ。顔も心も。
「それに、レゾンでは魚だけでなく、次の一手も――――」
ニッコリと笑む先生。
レゾンでは漁以外にも、人々に仕事を与える事を考えており、現在、ギルドから第二陣の派遣を実行。
今回の面子は、食料生産に秀でた者たちからの編制だそうだ。
第二陣の主目的は、塩田施設を造ること。
塩の大規模生産での富。
富により、港町に人々が集まり、栄えさせ、更なる塩田施設の拡充へと繋げていく。
後々、各港町と航路を結ぶレゾンを大陸中に塩を物流させる一大拠点にする計画だそうだ。
物々交換から始まるだろうが、物流の巡りが順調になれば、物から貨幣への変更も考えているそうだ。
俺なんてまったく必要ないね。
ほっといても、先生が大陸全体を動かしてくれる。
「その為にも多くの人材を必要とします。これから行かれるクレトスでも、可能ならば、ワック氏なる御仁を王都へと迎えたいので、登用をお願いします。もちろん、正気を保っていたらの話ですが」
「分かりました」
無事でいてくれれば、王都の武具の発展に大きく貢献してくれるだろう。
なんたって、名前が名前だから。
有能な人材を欲するのは、古今不変である。
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