PHASE-163【登山】

{ハハ――――、キッズでもそんな嘘はつかないよ死神様}


{本当にいるし!}


{じゃあ、俺は忙しいから。リアルで仲間達と一生懸命だから。一億だの一兆だののフレンドと楽しんでよ}

 ディズプレイを見ている俺は嘲笑ですよ。


{入りたいなら、私のフレンドにしてあげてもいいから!}

 ――……必死だな……。

 

 あんだけスタイルのいい美人なのに、フレンドが全くいないってのは、役職なんかが理由で作りにくいのだろうか。

 

 よくよく考えると、俺もリアフレとしかやってなかったな~。

 

 でも裏を返せば、セラはリアフレもいないって事か~。

 役職とかじゃなくて、性格に問題があるんだろうね。


 よし! もう少しセラの精神世界アストラルサイドを攻撃したいから、ここはいつものように、このままメールをスルーしてやろう。


 ――――いつもなら、ここでやり取りは終わるんだが、今回はその後も何度か、{フレンドにしてあげるから!}って内容が何度か送られてきたが、バッチリとスルーしてあげた。

 

 ――……最後辺りに送られてきた内容は、{なんでいつも途中で返事しないの……。ねえ、なんで?}って文面の繰り返しだった。

 ヤンデレのキャラみたいで、ちょっとしたホラーだった……。





「「ん――――っ!」」

 ハンヴィーから降りて背伸びをすれば、背中からポキポキと小気味のいい音が聞こえてくる。

 伸びの部分でコクリコとハモる。

 

 続いて深呼吸。

 

 清々しい青空だ。蒼穹である。

 心地のいい風が通り抜ける。

 車内でほてった体には、最高の納涼だ。


「行楽シーズンにもう一度おとずれてみたいね」

 クレトスという村は山の上にあるそうで、現在は麓。

 

 山道をハンヴィーで行く事も可能なくらいの道幅はあるが、ギリギリでもある。

 もしもを想定して、歩きを選択。


「ベルはいいのか? そのブーツで」


「普段からこれだ。なんの問題もない」


「そうか」

 炎の力を失っていても、身体能力は超人のままだもんな。

 

 ヒールの高いブーツでの登山はなんの問題もないようだ。

 まあ、見慣れているけどさ。

 

 ――――山道を徒で進み始める。

 やはり空気がうまい。

 そのおかげか、息切れもしない。


「瘴気が浄化されると、モンスターも出なくなるのかな?」


「どうだろうな。元々、野生にいるのは普通に出没するんじゃないか」

 油断は出来ないと、ゲッコーさんはハンドガン・CZ75 SP-01を手にして、周囲を警戒しながら先頭を歩いてくれる。

 

 俺も一応は帯刀している。

 

 急ごしらえだが、先生がドワーフに頼んで打ってもらった刀。

 

 折れた物に比べれば質は落ちるが、ドワーフが打ってくれたと思うと、不思議な力が宿ってそうだと思ってしまう。もちろんそんな恩恵は無いが。


 刀にも頼らせてもらうが、おっかないのが出ない事を祈りつつ、ゲッコーさんを真似て、銃であるマテバを手に持つ。

 出来るだけ脅威には、遠距離で対応したいからな。

 

 遠距離対応の銃と魔法――。

 

 今の俺には両方ある。

 

 へへ、強くなってきているじゃないか。

 

 独特なマテバの銃身。

 通常の銃と違って、バレルが下にあるのが面白いし、格好いい。

 ついつい全体を眺める。


「見るのはいいが、見惚れるなよ。命を奪う物にのめり込むのは悪い方に傾いていくからな。武器とは、あくまで手段の一つだ。それを忘れてむやみに力を行使するな」


「分かってるさ。俺が踏み外しそうになったら、思いっ切り蹴ってくれていいから」


「いい覚悟だ」

 ニコリと柔和な笑みで返してくれる。

 

 正直、モデルも太刀打ち出来ない美人の長い足で蹴られるのって、ご褒美でもあるけどね。

 俺はMじゃないけど。

 

 でも、最近は本当に俺に対して、優しい表情を見せてくれるよ。


 艶やかな白い髪になったら、赤髪の時のような闘争心が削がれるのかな?

 ――……いやいや、ないない。なんだかんだで俺はボコボコにされている……。

 

 ――――原生林からなる緑が生い茂る風景に目を向け、水筒の水を飲みつつ、ひたすら山道を登っていく。


「道の整備がされなくなって、随分と立つようだ」

 と、ゲッコーさん。

 

 たしかに、人が通れる道はあるけども、両脇からは草が伸びてきて、道を隠そうとする勢いだ。

 

 瘴気が充満していたから、人の往来もなくて、道の手入れなんかが出来なくなってしまったんだろう。


「となると、クレトスの人達は……」


「最悪な事も考えておこう」

 渋い声にて鋭く返してくる……。

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