PHASE-341【俺の人選はマニアック】
正直、この四人がいてくれるなら、召喚した後に、召喚された人物が攻撃を仕掛けて来ても問題ない――――はずだ。
さてさて、ちょっとマニアックな人物になるぞ。
三国志に興味があんまりない人なら誰だよ? ってなる人物だが、俺は好きだ。
プレイギアをポーチから取り出し、備える。
緊張は払拭できていないままに――――、
「いでよ、
言えば輝くプレイギア。
俺たちの眼前では、光の奥で片膝をついた姿の人影が見て取れる。
輝きの終息と共に、余裕ある動きで立ち上がる。
「――――ここは――――、何処か?」
開口一番は、俺に召喚された人物たちと同じもの。もはや常套句だ。
身構えつつも、俺は相対する人物の全体に目を向ける。
手にした得物は槍。
穂先と柄の境には赤い髪の毛のような飾り。
穂先と柄には彫刻の施された手の込んだ作りだ。
白銀に輝く鎧兜に、膝裏を覆い隠す長さの赤い外套。
兜は顔がだけが露出した作りのもの。兜頂部には槍同様に赤い毛の飾り。
顎先で整えられた髭。鼻筋の通ったダンディズム。
ゲッコーさんに負けず劣らずのハードボイルドな人物が現れた。
「始めまして」
上擦った声でのファーストコンタクト。
「面妖な恰好をした少年だな。――――後ろの者たちも面妖。が、強いな。そして――――そこにいるのは、曹操の知者だな」
「まさかの陥陣営殿とは」
「本来ならばこの穂先で貫かねばならんが、この状況がそれをさせない」
「聡明で何より。流石は陥陣営殿」
ニッコリと笑みを湛える先生だが、その笑みは心からのものではなく、顔に貼り付けているものだ。
高順とその部下達は一度戦いに赴けば、彼の指揮の下で必ず敵陣を陥落させる事から、高順は陥陣営いう異名で呼ばれ、敵に恐れられた。と、ゲーム内の武将列伝のテキストに載っていたのを思い出す。
「主の見立ては悪くないと思います。正直、なぜ文遠君や陥陣営殿が呂布の配下にいたのかが、私にとっては謎も謎。あのような将器なき者の下にいる存在ではないのですがね」
「我が主君を愚弄するか」
「いえ、愚弄ではなく、真実を述べているのですよ。貴男も文遠君と共に降るべきでした。そうすれば、天下に名をはせた武人となれたでしょうに」
絶賛ピリピリとした雰囲気です。
片方は俺の後ろで、顔に貼り付けた笑みを絶やさないままに発言し、片方は俺の眼前で怒りを覚えていても、それを表面に出さずに、冷静さを顔に貼り付けている。
その間に立たされる俺は脂汗が止まらない……。
「訳が分からぬ。誰に降ると?」
ほら、良くないよ先生。ゲーム内だと、まだ負けてないから。歴史通りに物事を進めてないですから。
「私の前主である曹操様にですよ」
「なぜ自分が曹操に? それに前主? では現在は?」
「いま私達の間におられます」
あ、どうも。と、後頭部に綺麗に手を当てての四十五度での一礼。もちろん向けられる表情は怪訝なものだ。
「面妖な状況。なにかしらの妖術の類いだろうか」
手にする立派な槍の穂先がキラリと光を反射し、若干だけど、俺に向けられている気がする。
「妖術と言えば、妖術です」
警戒を解きたいから俺は素直に発言する。
「ほう」
中々に順応性が高いようだな。
現状と妖術で話を受け入れるか?
「君は見たところ十代半ば、戦いの場にいてもおかしくはない。世迷い言を発せば、時として命を失うという事も有る。というのは――――、理解しているよな」
――……やはり難しいキャラを選んでしまったのだろうか。
先ほどまでと違って、穂先は完全に俺に向けられている。
まだ間合いではないが油断は出来ない。
「さて、どうするべきか。妖術の類いと言い、それが曹操配下の知者といる。しかもその知者に主とまで言わせる君は何者なのだろうな」
「自己紹介が遅れました。俺は遠坂 亨。この一団の頭目のような存在です」
頭目って発言で後ろにいる、特に女性陣は納得してないみたいだが、俺、会頭だから。言ってることに偽りは無いぞ。
「なんとも説得力にかけるな。妖術の類いで操っているのかな?」
つまり、俺のような存在では後ろの面々が素直に付き従うとは思えないって事なんだろうか。
俺でも同じ答えにたどり着くよ。
というか毎度だよ。勇者だって言っても、どいつもこいつも俺の事をスルーしたからな。もう慣れたぞ。
――……嘘。強がり。スルースキルは今尚、未習得だ。
毎度このやり取りがある度に、クサッっと胸に突き刺さるものがあるね……。
まあ、信じてもらえなくても仕方がないけどな。
俺が操れる妖術を使えたとしても、せいぜいこの面子でそれが通用しそうなのはコクリコくらいだろう。
後は誰も操れそうにない。
操る前に殺される……。
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