PHASE-342【一撃で伝わってくる強さ】

「強者を従えている存在の実力たるや」

 発言から完全にアウトだな。

 プレイギアなんて構える余裕はない。

 それ以上に防衛本能が勝る。

 指呼の距離が一瞬にして詰められた。

 高順の体ではなく槍によって――。


「ふん!」

 ガキンと鋭く重い音と共に、矛先が俺の顔を掠める。

 槍には氷結系の魔法付与でも施されているのか。と、思わされるほどに、冷たい風圧が頬に伝わってきた。

 それが原因なのか、脂汗が途端に冷や汗に変わった。


「ほう、今のを捌くか」

 いや~、ベルにしばかれるもんだな。

 なんとか見えたぞ。

 鞘から完全に刀を抜ききらないままの状態だったが、何とか突きを捌いた。

 次の動作はバックステップで距離をとる事だった。

 追撃が来ないのは、俺の後ろにいる強者たちが構えてくれているから。

 

 しかし失態。こういう状況になる可能性もあると思っていたのに、ピリアを使用しないままだったのは本当に失態だ。

 プレイギアに素早く戻すとかどうとか考える前に、肉体を強化すべきだった。

 それを怠ったが故に、手が痺れてるぞ……。

 膂力だけならベルでも足元に及ばない強さだ。


 ちょっとなめてたのも問題だな。

 三国志の豪傑たちの中でカテゴライズすると、有名どころと比べたら霞んでしまう存在と認識してたからな。

 だがしかし、今の一撃でわかるのは、この人は間違いなく強い。


「さて、どうするつもりだ」

 背後から落ち着いた涼やかな声。

 肩越しに見れば、声同様に落ち着きある佇まいのベル。


「どうするって、戦うつもりはないけども」


「どのみちそれでは戦えないだろう」


「なんで?」

 細くて白い食指が、俺の抜き切れていない刀に向けられる。


 ――…………!?


「ああ!」

 俺の刀が……。

 高順のただの一突きを防いだだけで、削り取られている。

 刃から鎬の部分までがごっそりと削られている。

 美しかった刃文がヒビによって台無しになってしまった。


「なんじゃそりゃ!?」

 それ以上に俺が継いで出した声は、信じられないといった驚きのもの。

 数打ちとはいえ、ドワーフであるギムロンが打った刀を一突きでこんなにするなんて、これだと振って何かに軽く触れるだけで、ポキリと折れそうじゃないか……。


「その刀では、次は防げそうもないようだな」

 やばいな。これは強いぞ。普通に強い。

 俺が勝てるレベルじゃないと思う。いや、魔法を使えばワンチャンありそうな気もするが、大魔法しか使えないからな。こんな至近戦闘では使えない。

 通常戦闘となると、ピリアの使用だが、ピリア込みでも俺はこの人には勝てないな。

 いや、戦うつもりはないけども。


「待って! 俺は戦うつもりはないよ」


「自分も極力戦いは避けたいが、元などと言っているが、曹操の手の者が眼前にいるとなるとな」

 これは呼ぶ人選を間違えたのだろうか。

 いや、そんなことはない!


「俺は貴男の力を借りたいだけなんです」


「二心を抱けというか? 自分に。それは死ねと言っているようなものだ」

 うわ~、本当にクソ真面目。マジでなんでこんな人が呂布の配下にいたのか。

 先生も言ってたけど、三国志の中でもかなり謎なところでもあるんだよな。


「二心とかでなく、この世界を救うための助力を得たいんです」


「この世界か……」

 矛先が地に向けられる。といってもまだ油断は出来ない。ちょっと動かせば直ぐに俺に向く程度の俯角だ。

 発言を間違えたらあれが俺を貫く。

 というか、後方は構えているだけで助けようともしないよ。

 あれだよ、俺の成長を促すためのいつものスパルタ姿勢だよ。


 ライトノベルとかだとさ、たくさんの可愛いヒロイン達が我が身を呈して、主人公の前に立ちふさがってくれるじゃないの!

 完全に自分でなんとかしてみろのスタイルだよ。

 ベルとゲッコーさんがそうだから、シャルナとコクリコもそれに従う姿勢。

 普段は空気も読まずに先制攻撃で迷惑をかけるコクリコが、こんな時だけ素直に従ってんじゃねえよ!

 唱えてくれよ! ファイヤーボールノービスを!!


 ――――俺は高順にこの世界の状況をなんとか教える。

 緊張で声が喉にへばりついたような感覚に襲われつつも、なんとか口から声を絞り出した――――。


 話を聞いてくれる高順。

 そこは三国志のゲーム人物。魔王とか言ったところで、面妖としか思ってくれないから訝しい表情。

 当然だよね。俺だってファンタジー知識が無いなら信じられないもの。


 とりあえずコボルトとか、人とは違う亜人のような存在を見てくれれば信じてくれるかもしれないんだが……。

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