PHASE-343【待ってました】

 未だに穂先は俺にすぐ向く状態。でもって、俺よりもやはり先生を警戒しているのか、俺を見ているようで、俺の斜め後ろに立つ先生に鋭い眼光を叩き付けている。

 その眼光が直接、俺に向けられているなら、萎縮して動きが鈍くなりそうな程に強いものだ。


「この世界の人々のためにその力を貸してくれませんか」

 もう一度お願いする。


「ふむん。この世界と言われてもな」

 やはりこの場に、人ならざる者の存在がいてくれれば信じてくれ――――、


「ん?」


「おまたせ~」

 テクテクとマヨネーズ容器体系の白い子グマが、こちらに向かって前足を振りながら近づいてくる。


「危ないからそこにいなさい」

 と、ベルさんが優しい……。

 俺にはスパルタ放置主義なのに……。


「な、んだ……」

 まあ、いいタイミングだったけどね。ゴロ太。

 喋る子グマの登場に、高順の矛先は完全に地面に向けられた。


「話を聞いてもらえるだけでもありがたいのですが」

 なのでここで一気に交渉に持ち込みたい。


「いいだろう。喋る子グマをこの目で見てしまえば、そちらが虚言を述べているというわけではないようだからな」


「この人はだれ?」

 可愛らしく首を傾げて問うてくる渋い声。


「高順という。よろしくたのむ」


「ゴロ太といいます」

 ぺこりと頭を下げる愛らしさ。


「ゴロ太、強き良き名だな」

 ――……そうか?


「白い毛並みも美しい」

 自分の鎧も白いもんね。そういうこだわりがあるようだ。


「分かっていますね」


「そちらも」

 おっとここでベルが参加。

 ゴロ太と合わせて白いのが並んでますよ。


「で、ゴロ太いよいよか」


「うん。出来たよ勇者様」

 傷ついた刀を納刀。これは火龍の時にお世話になった刀同様に、感謝してから供養しないといけないな。

 あと、ギムロンにも謝らないといけない。


「お待たせしました――――? あのどちら様で?」

 いきなり見ない顔が現れたもんだから、ワックさんを始め、警備の兵達もざわついている。

 これは失態。工廠の範囲内で許可も取らずに召喚をしてしまったからな。

 よかったのは、俺に対して槍を向けているところを見られなかったところか。

 戦闘が行われているとなれば、混乱に拍車をかけるところだったからな。


「この方は俺たちの仲間で高順氏です」

 と、無理矢理の既成事実を作ろうとする俺。


「申し訳ないが、自分は――――」

 反論しようとする高順氏の下方で、


「勇者様のお友達なら、ボクともお友達になってほしいな~」

 渋い声だが愛らしい仕草で高順氏に上目遣い。狙ってやってないのが怖い。いや、天然だからこその魅力なのだろうな。

 でも、ベルは喜んでも渋い男の人には――――、


「お、おお……」

 ――……厳つい顔に似合わず、可愛いものが好きなのだろうか? 発言をゴロ太に断たれたまま、何も言わなくなってしまった。


 よし! これはゴロ太にお願いすれば、俺たちに協力してくれる可能性が出てきた。

 子コボルト達も動員してのモフモフ接待で、仲間になってもらおうじゃないか。


 高順氏は俺たちの仲間と言うことで、周囲の警備に当たる兵達には落ち着きを取り戻してもらった。


「では早速、お願いしますワックさん」

 気を取り直して、俺の装備を見せていただこうじゃないか。


「分かりました」

 ウキウキとした笑みを見せてくれる。初めて手にした神の如き存在である火龍の鱗を加工し、完成させた喜びがにじみ出ている。


 かなりの日数を要して作り上げたんだ。苦労が実ったというのがその笑みから伝わってきますよ。

 

 だからこそ、俺も笑顔になる。なんたって俺専用の装備が出来たんだからな。

 ようやく俺が主人公の、ファンタジー世界が到来するんじゃないですかね。

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