PHASE-344【ビームシールドは浪漫】

「どうぞ」

 と、ゴロ太が前足で大事そうに抱きかかえて持ってきてくれるのは、スタンダールカラーの赤と黒からなる、西洋甲冑のような蛇腹状の籠手だ。

 手首の部分にはオレンジ色の球体が埋め込まれている。


「はめてみてよ勇者様」

 ニッコリ笑顔のゴロ太が差し出してくれる籠手をはめてみる。

 剣道の籠手とは違って五指がしっかりと動かせる使用。細かな作業が出来るように、指部分は薄手の黒い手袋になっている。

 手首から前腕を守るような蛇腹状の籠手を固定するのは、三本からなるベルト。 しっかりと絞めて固定する。

 

 初めての装備だったけども、ベルト部分は腕時計の要領で簡単に取り付けることができた。


「ふむ」

 やはり軽いな。

 畳一畳ほどの鱗を持った時も軽かったし、腕にしっくりとなじんだ作りだからってのもあるだろうが、籠手からは重さを感じる事はほぼ無い。

 若干の重みを感じるのは、手首部分に備わったオレンジ色の球体が原因のようだ。

 といっても、重さは無いに等しいけど。

 いいね。これが盾の代わりにもなってくれるわけだからな。


 剣道経験者としては、竹刀からの経験が活かされるから、刀を両手で持つスタイルが当たり前。

 なので盾と共に発展した剣技は、経験が無いので遠慮したい。

 盾が無くてもこのとてつもなく強靱な籠手なら、どんな攻撃だって防いでくれるはずだ。

 何よりもこの宝石のような存在が格好良さに拍車をかけるね。


「この宝石みたいなのはなんです?」


「タリスマンです」


「タリスマンって魔法効果を高めるやつですよね」

 たしかシャルナの黒剣もタリスマンだったな。魔法効果が付与されて、剣の強度が増す効果だったっけ?


「そうです。ですがそれは会頭のネイコスの力をコントロールするためのものです」

 俺はピリアの基礎は使えるが、魔法は大魔法であるスプリームフォールが一つしか使用出来ない。

 まだまだネイコスのコントロールは下手くそ。

 このタリスマンは外部マナであるネイコス使用時に、この籠手の封じられている火龍の力を引き出すための補助をしてくれる為のものらしい。

 コントロールが下手くそな俺にとっては、ありがたい補助アイテムだ。


「イグニースと発せば、タリスマンが反応して火龍の鱗からシールドが発生します」

 イグニースは、タチアナが使用する地属性魔法のプロテクションの炎系バージョンだそうだ。

 タリスマンによって火龍の力を発動させることで、防御魔法を展開できるようになるらしい。

 

 イグニースは火炎属性魔法であるが、プロテクションの上位に位置する魔法とのことで、氷結系の防御魔法であるウォール・オブ・アイスに匹敵する強度を持っているそうだ。

 マレンティが使用していた魔法だな。

 最終的にはベルが氷の壁を他愛なく溶かしたけど、あの魔法は上位魔法としてかなりの能力を持っていたらしい。

 チートといると、その辺の凄さが分からなくなる。

 

 発動させるために左籠手の手の甲を前面にしつつ集中し――――、


「イグニース」

 俺の声に手首部分のタリスマンが瞬時に光って反応する。


「おお!」

 籠手を中心にして炎の盾が展開された。

 半透明の炎の盾。

 籠手の前面に現出した形状は亀甲のようなデザイン。スクトゥムのように全身が覆い隠せる大きさ。

 半透明だから、眼前の状況もよく分かる。敵と相対している時に、相手の動きを見つつ防御出来るのはありがたい。

 

 にしてもこれは――――、


「ビームシールドだよ! ビームシールドとか浪漫すぎるよ!」


「びいむ。ですか?」

 聞き流してくださって結構ですよワックさん。

 

 魔法の力で顕現したシールドはもちろん重さなんて無い。腕を動かせば籠手に連動する亀甲デザインの炎の盾。

 熱は感じるが不快な暑さはない。試しに棒を使って盾を突けば、突いた先端が焦げる程度だ。

 俺が意識を集中させれば、温度が上がり、炎の盾も比例するように強度が増すそうだ。

 通常の戦闘ではこのくらいでいいかもな。力を加えすぎて高熱になれば、周囲の味方にも影響が出るかもしれない。

 この辺は敵味方識別が出来るベルの炎に軍配が上がるな。

 ベルの炎が凄いってことを再認識させられる。

 

 でも、高熱になるって事は、敵と戦う時は炎の盾の力を利用して、シールドで体当たりってだけでも、十分な攻撃力になりそうだな。

 炎熱付与のシールドバッシュだ。

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