PHASE-81【セーブは時として、実行しない事も大事】

 ――――自分の野望を口にする十三歳の話に疲れて、ふぅ、と嘆息。

 二人を見れば、子供をあしらうのが苦手なのか、俺からそっと目を反らしたよ……。

 どうすっかな~。正直、現状の情報はたかがしれているからな。俺たちの知らないことを知っているというのなら、渡りに船ではあるが。

 王都から出て、瘴気の中を抜けてこの森に到着したけど、こっからは、この辺の土地勘が強いのがいると助かるのは確かだ。


「ふむん――――。なんかあっても自己責任だぞ」


「分かっていますよ!」

 まったく。なんて元気なんだ。

 コイツのせいでバタバタしてたけど、まだ夜中だったな。そら疲れてるし、眠くもなってくる。

 夏休みに入ってからは、夜更かし、徹夜ゲームの日々だったが、この異世界で生活すれば、日の出と共に起きて、日の入りと共に寝るっていう、健康的な生活になってたからな。

 眠い…………。


{とんでもねえよ。テレビ壊れたし、殴られるしさ}

 眠いながらも、ベッドで横になりセラとチャットのやりとり。

 どういうわけか、セラの返しは早い。寝るって事を知らないのだろうか? 神だから寝なくてもいいのかもしれんが。

 俺としては、次の日にでも返信がくればいいと思ってたけども、即座に返ってきた。

 ますます深まるボッチ疑惑。


{大丈夫よ}


{何が大丈夫なんだ? 主語が抜けてるぞ}


{読解力。話の流れから、テレビでしょ}


{ああ。で、大丈夫ってなんで?}

 

{データをセーブしてないでしょ}


{は!?}

 セーブ? まあ、ゲームなんだから出来て当然なのか。

 セラの説明では、プレイギアで召喚した人や物は、俺のストレージデータからのものだから、セーブさえしてなければ、次ぎ使用する時は、現状のデータが採用されるそうだ。

 なのでこの家を戻して、再び召喚することがあれば、壊れたテレビは元通りって事らしい。

 ここでセーブをしてしまうと、次に召喚した時、テレビは壊れたまま。

 なるほどな。というか、召喚したものは戻せるのか。

 ベルとゲッコーさん、先生は常に召喚したままだし、砦からの帰りに使用したトラックは、城壁の隅にそのまま放置してたから、知らなかった。

 というか、知らなすぎだな俺……。


{ギャルゲーにオートセーブ機能がついてなくて良かったわね。ニヤニヤ}

 ニヤニヤってのを文字に起こすな! 腹立つ。

 ギャルゲーにオートセーブ機能がついてたら、分岐の時とかに勝手にセーブされると困るからな。

 ともあれ、セーブ機能の事は、早いうちに知ることが出来てよかったよ。


{じゃあ、頑張って魔王倒してね。寂しくなったらいつでも連絡してくれていいから。これ以前も書いた記憶があるんだけど、返事しなかったよね?}

 おっと、ここで返答すると、ネチネチとした内容で返信されそうだから、ここはこのまま無視しよう。




「おはよう。なんだか気分が良さそうだな」


「おはよう! いや~。こんなにいい匂いがしてるなら、テンションも上がるさ」

 朝食の準備をしてくれる美人の姿。

 チャット向こうの美人もいいが、目の前の美人には勝るまい。

 ――――シンプルなプレーンオムレツ。

 シンプル故に誤魔化しが利かない。

 うむ、美味そうだ。だが、和食も食べたい。

 これはやはり、俺自身が料理スキルを上げていくしかないな。

 ゲームと違って、スキルを上げる=日々の努力だけども。

 テッテレー♪ と、評価という名のレベル音はあっても、スキルポイント振り分けなんかで技能習得が可能という慈悲は、この異世界には皆無なのだ――――。

 朝食をありがたくいただく。

 匂いにつられてコクリコが馬鹿食いしそうになったが、夜食も食べて、朝も食べたら、これからの移動がきつくなるということで、ベルから注意を受けていた。

 姉妹のようである。

 この場合、姉に栄養を全部持っていかれてるって設定だな。

 笑ってたら、不快と認識されたようで、まな板娘に殴られた……。痛かった……。


「――――んじゃ、家を戻すから離れて」

 俺の力に興味津々なのか、コクリコが瞳を輝かせている。なんだろうか、この優越感は。

 昨晩は俺の事を馬鹿にしていたからな。悪い気はしないぞ。

 ディスプレイを家へと向けて、


「戻れ」

 と、一言。

 家が光り始めると、ディスプレイの中に吸い込まれるようにして、俺たちの眼界から消失する。


「これは何という魔導具ですか! 凄いです。ください」


「やるわけないだろ。お前はそのワンドを振ってろ」

 ディスプレイを見ると、セーブしますか? って出てる。【はい】と【いいえ】があるので、後者を選択。

 これで次回召喚したら、テレビは無事なわけだ。

 物欲しそうにコクリコがプレイギアを見ているので、急いで専用のポシェットにしまった。

 盗み食いをするような奴だからな。


「もしかしてですが、私のことを馬鹿にしてますか?」


「うん、してるよ。初期魔法しか使えないのに、調子にのってる幼女だろ?」


「幼女ではないです! 十三ですよ」

 家を出し入れ出来る俺の力を目にして、その本人に初期魔法と言われると、流石にプライドがあるのか、


「ファイヤーボール!」

 我が力をとくと見よ! とばかりに、いきなり空に向かって魔法を唱える馬鹿が、俺たちの目の前にいた。

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