PHASE-1237【俺がこの場の誰よりも勝るモノ】
こちらの間合いに入る事なく隙を窺うコルレオンの姿に警戒をしていれば、当然ながら――、
「おらぁ!」
俺に対する敬語の時とは違って、厳つい声と共に正面から木剣を打ち込んでくるドッセン・バーグ。
――ガゴンッと、木刀と木剣がぶつかり合う。
木と木による音とは思えないほどの鈍い音を響かせれば……、
「いったぁぁぁ……」
と、俺が声を漏らす。
「防ぎましたね」
言いつつ続けざまに手首を返しての斬り上げはバックステップにて回避。
目の前では、次の一撃にはバックラーによるシールドバッシュを――と考えているようなモーションで動きを止めていた。
一撃目を右の木刀で受け止めたのは良かったけども、右手を襲った痺れは体全体にも伝播する程の威力。
力任せの一撃に対して木刀を手放さなかった自分を褒めたいけども――、ドッセン・バーグが攻めてこないということは――、
「シッ!」
気迫のこもった短い息を吐きつつ、ワンドによる刺突が側面から迫る。
籠手で防いでいなし、ここでも距離を取るように動けば、コルレオンがコクリコとは反対側から攻めてくる。
ここぞとばかりのタイミングによる攻撃。
コルレオンは先ほどまでと違い、攻めの嗅覚が鋭くなっている。
ご丁寧にこっちの痺れた右手側から仕掛けてくるってのも有能な証拠。
下がったところにコルレオンが木剣二本を構え、特徴である低い身長を活かし、リーチは短いけどもこちらのバランスを崩しにかかるように足ばかりを狙ってくる。
二本の木刀で振り払いつつ強者二人に隙を与えないように睨みを利かせれば、足を止めてくれた。
「ふぃぃぃ……」
と、ここで生まれた貴重な時間で息を漏らして体を弛緩させる。
エリシュタルトでコクリコとギムロンの二人を同時に相手にするよりも流石に今回はしんどいね。
力担当のドッセン・バーグが正面。
敏捷さと天性の戦闘センスで多方向からしかけてくるコクリコ。
その二人の力を最大限に発揮させるためにこちらを翻弄してくるコルレオン。
「なんだよ。この短時間にしっかりと出来上がってんな。流石は俺のギルドメンバーじゃないか……」
俺にとって現状よかったと言えるのは、ランシェルを倒せたことだな。
連携が完成されていたらこれ以上に面倒な事になっていた。
「ハッハー! どうしますトール。降参しますか? 今なら実験体としてその体を優しく使わせてもらいますよ」
なんだよ優しく使うって。怖いことしか思いつかんぞ。
勝ち誇った声音であるコクリコなんだが――。
そう思わせといての、
「そりゃ!」
一切、手を抜くことはなく、鋭利な蹴撃を放ってくるのはお見事である。
ランシェルと良い勝負をする――いや、現状ランシェルを超えているかもしれないな。コクリコの蹴撃は。
そんなコクリコの蹴りで体勢を崩したところに、完全に崩しきるとばかりにコルレオンが足元から迫る。
近づけさせないようにここでも木刀にて振り払えば、正面からはドッセン・バーグの極悪な風切り音を纏った袈裟斬り。
防ぎはしたが受けた威力は捌ききれず、またも地面に背中をつけてしまう。
全方位から「「「「おおっ!」」」」と「「「「ああ……」」」」といった両極端な声が上がり。俺の耳朶に届いてくる。
「にゃろ!」
「ええい、往生際の悪い」
やったことはないがブレイクダンスの要領で体を回転させ、両手に持った木刀を振り回し、三方向からの追撃を中断させる。
距離を取る中で、
「またも仕損じてしまいました。本当にトールは追い込んでからが面倒くさいですね。さっさとやられればいいものを」
仕留めきれなかったことにコクリコが悪態を漏らす中で、
「じっくり、確実に――だ」
ドッセン・バーグは至って冷静。
こちらの体力と精神力を削るだけ削ってから仕留めるといったところか。
真綿で首を締め付けてくるって戦法なんだろうな。
それにしても更に増えたな。ギャラリー。
さっきの声の上がり方も今までと違ったからな。
逃げ切った俺に対する称賛だけでなく、俺を仕留められなかった事を残念がるような声もあった。
いいじゃないか。打倒、勇者ってか。
反骨心を持った連中がいるのは喜ばしいことだ。
それだけ上を目指すための努力をしているってことだろうからな。
そういった一癖も二癖もある連中は、戦場では大いに活躍をしてくれるタイプだろう。
だからこそ、そういった連中の前で情けない姿は見せられない。
以前、ベルにボコボコにされた時とは違った姿を見せないとな。
あの時と今の俺は違うからな。
今現在、この試合を見ている冒険者の中には新人以外の面子も多くいる。
研鑽を積み、死線をくぐり抜けてきた者達も多くいる事だろう。
だがな――、
「質が違うんだよな」
と、ここだけはしっかりと言わせてもらいたい。
周囲を見て言わせてもらいたい。
当然、何のこと? って感じで皆そろって疑問符を頭の中に浮かべているだろうけどね。
「質が違うんだよ」
と、もう一度、口にする。
今度は近場で俺を包囲する三人を見渡しながら発した。
「ドッセン」
「分かっている。コルレオン、気を抜くなよ」
「はい」
――さてさて――。
一歩前に進めば、俺を包囲する三人が身構える。
確かに脅威だよ。強い。間違いなく強い。短時間での連携も素晴らしかった。
努力と多くの戦闘を経験し、生き残ったからこそ得ることが出来た力。
当然、ギャラリーの面々もそうだ。
だが申し訳ないが俺は別格なんだよ。これは自信を持って言いきれる。
口に出せば野暮ってもんだが、発せば共に行動しているコクリコは理解するってもんだろう。
「この中で俺以上の死線をくぐってきたヤツはこの場にはいないね!」
野暮な事と分かっていたが口から出てしまう。
だが自負しているからこそ堂々と言い切れる。
「これはまずいな……。どうするんだコクリコ。会頭がデカく見えるぞ」
「一歩後退とは。臆してどうするんですかドッセン。歴戦の猛者がなんとも情けないじゃないですか」
「歴戦の猛者って自負はないが、場数は踏んでいるからな。今までと違って会頭の纏っている雰囲気がデカくなったのは分かるんだよ」
「呑まれないでいただきたいですね……」
とか言う割に、コクリコも声音が呑まれかかってんだよな。
ドッセン・バーグと違って、後退りしなかっただけの胆力は流石だけどな。
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