PHASE-331【せっかく前もって考えたのに】

 今回はベストメンバーで行くことになるな。

 ゴロ太や子コボルト達と離れるのに難色を示すだろうが、ベルにも出張ってもらわないとな。

 おっとそうだ。


「ゲッコーさん。俺にはマテバはまだ早かったです」


「だろうな。六発は辛いだろう。チーフスペシャルだけってわけにもいかないよな」


「はい」

 というか、チーフスペシャルまったく使ってねえ……。

 アンクルホルスターに眠ったままだ……。


「なんにする?」

 悪い笑みはなんなんでしょう。

 武器商人的なキャラを演じてるんですかね……。

 ここは弾数も多く貫通力が高い。


「――――FN-57をお願いします」


「いい選択だがグリップが太いからな。しっかりと握り込めよ」


「はい」

 いつものように宙空に手を突っ込むと不思議と出て来る銃。

 チート能力だよな~。

 おかげで俺はありがたく借りられるわけだけど。


 ――――うむ。握れば確かに太い。

 リボルバーであるマテバと違って、グリップ部分にマガジンが入る分、やはり違和感を感じてしまうな。

 特にFN-57は、相棒であるPDWのP-90と同じ5.7x28mm弾を使っているから、マガジンも従来のセミオートマチックハンドガンに比べて肥大していて、グリップもその分、前後に長い形状だ。

 でもそのデメリットをひっくり返すマガジンの装弾数は二十発。威力は有るとか無いとか言われるが、貫通力はあるから、鎧を装備した相手に対応できる。

 生き残る為、味方の為。撃つ時は躊躇はしないで撃つ。


「なんならP-90も使うか」


「いや、まだハンドガンにも慣れてないですからね。当分はいいです」

 まあ、強武器は俺個人の成長がすんでからじゃないとな。

 専用のホルスターも貰って、腰に装備。

 代わりに腰から外したマテバをゲッコーさんへと返す。

 ありがとうマテバ。お前のおかげで俺は、ダイヒレンの脅威を半減できたからな。

 

 おっと! 更にそうだ!


「ダイヒレンだ!」


「どうしました急に」


「お金が流通するなら。それを記念した硬貨を作りたいなと」


「いいですね記念硬貨。魔王軍に反抗した力の象徴として出回れば、人々を鼓舞できますからね」


「皆の手に渡りやすいように、金貨だけでなく、銀貨、銅貨でも作ってほしいです」

 鋳型はドワーフに頼めばその日に出来るだろうとの事。

 俺がダイヒレンという単語を口にした時点で、どの様な紋にするかなんて先生は聞いてはこない。

 代わりに、なぜにダイヒレンなのかと問うてきた。


 理由は、俺にとても幸せな一時を与えてくれたからだ。

 とても素晴らしい温かく柔らかく、いい香りのした時間を俺は一生涯わすれることはない。

 もちろんその事をまんま口にするのは馬鹿のやること。

 なので前もって考えていた理由を述べる。

 

 ――――ダイヒレンは冒険者が経験を積むための、最初に相対する存在。

 必要な通過儀礼。

 駆け出しが必死になって戦って、それを乗り越えてベテランとなり、果ては英雄と呼ばれる存在になる。

 ダイヒレンを倒さずして英雄にはなれないのだ。

 

 また素材は駆け出しだけでなく、ベテランや旅人にも重宝される。

 ギムロンから得た知識をひけらかす俺。

 

 このように人々に恩恵を与えるダイヒレンは、幸運のシンボルとして扱ってもいいと思うわけだ。

 そして、最たる理由となるのが、この世界で最強と言っても過言ではないベルが、亡骸だけで悲鳴を上げる存在。

 幸運と力の象徴にダイヒレンは似つかわしいと俺は熱く説いた。


「まあ、主がそう仰るのならいいのでは」


「お前が決めればいい」

 あら? 俺の力説をドライに受け入れますね。

 もっとこう、賛成でも反対でもいいので、感情を見せてほしかったんだけどな。

 

 ――――なんで半眼で俺を見るのかな?

 ううんと――――、呆れてる? この二人は俺の力説を見透かして、俺の真意を悟っている?


 ――……これは、分かっているな……。


 虚言を雄弁にて振るったところで、俺の真意を理解する大人が二人。

 まったく、貴男たちのような勘のいい大人は嫌いだよ。

 

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