PHASE-332【まあ、皆様。本当に逞しくなられて】

 ――――翌日、完全に根治した野郎達は通常営業に戻った。

 ベルの姿を目にすると、背筋が真っ直ぐになるという条件反射スキルを手に入れて……。

 トラウマは植え付けられたみたいだけど、今日からクエストには戻れるみたいなので、特に採取クエストに励んでもらいたいと思いつつ、俺は先生を伴って王城に向かう。



 ――――完全なる顔パスで門を潜ることが出来るっていうね。

 なんだろうね。酒蔵周辺の方が警備が厳しかったよとツッコみたいよ。

 

 いつものように謁見の間にて待機。

 玉座を前に左右に居並ぶ臣下達からは力が漲っている。

 活気がこちらにまで伝わってくるのを感じる事が出来た。


「おおトールよ!」

 おっと、大音声ですよ。

 耳が痛くなるほどにね。

 元気に王様の登場。

 玉座に座ることなく、強い足取りで俺に接近。


「前もって言ってくれれば色々と準備したものを」


「すみません」


「いや、かまわん。ここを家と思ってくれていいのだからな」

 俺の両手をガッシリと掴んでの握手。

 おお、この握力よ。

 整えられた美髯に、ハリとコシのある金の髪。

 そして、もっとも気になるのが――――、なんで上半身が裸なの?

 胸筋のたくましさたるや……。

 頑健なる体になりましたね。骨張ってフラフラしていたあの姿は何処へ?

 

 周囲の臣下である貴族達だってそうだ。

 品行方正なのが貴族だと思うのだが、眼界の方々は王様に触発されたのか、青白かった肌の色は、皆いい感じに日焼けした肌になっており、俺が想像する貴族とはかけ離れた風貌だ。

 

 優雅に毎日をまったりと楽しむというより、現場で部下と一緒になって体を動かしているって感じに鍛えられている。


「トール殿」


「勇者殿」

 と、王様に続いて、非協力であった一部の貴族の方々も、今では俺に対してフレンドリー。

 握手やハグを求めてくる。

 正直おっさんとのハグは嫌だけども、ここは勇者でありギルド会頭として、社交的に応じないとならない。

 

 ――――やはり俺の思い描いている貴族とは違い、抱きついてくる腕の力はパワフルそのもの。

 このまま鯖折りでもされたら、背骨はバキバキだろう。

 ごつごつの手は、某姫様が好きそうな働き者の手ですよ。


「出会ったばかりの時とは違いすぎますね」

 ついつい口からこぼれてしまう。


「皆で農作業をしているからな。国を統治する側として、雷帝の戦槌の面々には負けておられん」


「「「「そうですとも!」」」」

 王様に呼応する皆さん。

 謁見の間は覇気を纏った声音で支配される。

 王都での勝利。火龍の解放。一部瘴気の浄化。ワックさんが王都に戻ってきた事。

 立て続けの朗報が続き、閉鎖的な考え方から一転しての開放的な思考。

 しっかりとした強い考えを持ち、それを行使する胆力に切り替わったご様子。

 やはりというか、ここにいる大貴族を中心とした人達は、本来はこういうタイプの方々だったんだろう。

 

 追い詰められた王都から逃げ出さすにここに居座ったのは、瘴気の問題もあっただろうが、気概が少なからずあったわけだろうし。

 

 本来の姿に立ち戻ったと考えるべきなんだろうな。

 

 俺に力を与えすぎる事を良しとしなかった当初は、先生がそれらに対して色々と圧を加えてたりしたんだろうが、今では先生のことを恐れるのではなく、尊敬している。

 貴族の方々は、先生が策を弄するほどの脅威ではなかったのかもしれない。

 この場合は無能だから弄さなくていいという事じゃなくて、話し合えばそれを十分に聞き入れるだけの才があったという事だろう。

 

 上に立つ人に必要なのは、人々の最前線に立って導き、下の者達の言葉を聞き入れるだけの柔軟さが大事。

 ここの貴族様たちはそれが本来、出来る人たち。

 勝利から自信と余裕が生まれ、本来の姿に戻る――――か。

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