PHASE-440【高レベルだった……】

「では、同胞たちの仇をとるという大義名分がこちらには出来たので、ここを攻めさせていただきます。我々、翼幻王ジズ軍は、軍勢こそ三爪痕トライスカーズの二勢力に比べれば寡兵ですが、強い者達ばかりが揃っていますよ――――」

 なんで説明口調なのだろう。

 空を飛ぶ者たちは軽装だと思われがちだが、重装でも高速で飛翔できるし、魔法による高高度からの攻撃も得意である。と、それ必要な発言なの? と、質問したくなる。

 このカラス。本当に何を考えているのか、掴み所のない奴である。


「どうも魔王軍の幹部ってのは、口に良質の油を塗っているのが多いよな。あんたの場合は嘴だけど」


「余裕がありますので」


「でも、そいつらは天に召されているぞ。あんたもそうなるんじゃないか?」


「おお、流石は勇者。言ってくれますね。ですが、あの程度のヴァンパイアと私を同一と思わないことです」


「あんたそれ、負けフラグ確定の台詞だぜ」


「フラグ? 旗がどうしたのか分かりませんが、我らの力をご高覧いただければ幸いです」

 鷹揚に両腕を広げ、こちらを見下してくる。

 こういう時、空を飛べるのはいいよな。

 身長差関係なく見下せるもんな。


「楽しみです――よ! ファイヤーボール」


「おっと」

 火の玉を羽の羽ばたきだけで容易くかき消すのは、クロウスに従う一体のガーゴイル。

 コイツも普通に人語を口にした。

 クロウスはガーゴイルの行動に対して、恭しく一礼で感謝。

 

 ――……このツルペタは、常に先制のアドバンテージを握らないと気が済まないようだ。

 ま、戦いに発展するのは確定しているから、今回は見逃してやろう。これが交渉中の行動なら大折檻の後に、パーティーから追放してやるけどな。

 それにファイヤーボールは、こいつらの力を見るのには丁度よかった。

 クロウスに従うガーゴイルは、魔法に触れることなく、障壁を作ることもなく、羽ばたきが生み出した風圧だけで、かき消せるだけの実力を持っているってのがよく分かった。

 眼力でファイヤーボールを消し去るゼノと同じか、それ以上の実力だと考えていいだろう。


「では後ほど」

 左手を腹部に当て、右手は体の後ろに回して頭を下げてくる。

 執事なんかがよくしそう一礼を行って、クロウスは伴っていたガーゴイル達と共に俺たちから去っていく。

 背中ががら空きだからな。狙うのは今なんだろうな。

 もちろん勇者の戦い方ではないので、皆して見送る。

 クロスボウを構えた兵士もいたが、戦闘経験が豊富な冒険者が射撃を制していた。

 ここで無用な攻撃を行えば、こちらに被害が及ぶという経験則からの行動だろう。

 勇者の戦い方どうこうじゃなく、俺もそれが怖くて仕掛けられなかったのが本音。

 この地の冒険者の方々も頼りになるようだ。ギルドに加入していないなら、あいつらを撃退した後、うちのギルドに募集をかけてみるのもいいかもな。

 既に勝った気でいる俺は、自信というより慢心。

 引き締めないと。

 切り替えるために、プレイギアを出し、アプリを起動してカメラモード。

 ガーゴイルであれだ、クロウスはどれほどか――――。


 ――…………!?


「嘘……だろ……」

 レベル95……。

 我が目を疑ってしまう。再度カメラでクロウスを被写体として捉えれば――、間違いなく95と表示された。


【カイディル・クロウス・ファーディガン】

【種族・タンガタ・マヌ】

【レベル95】

【得手・風魔法 光魔法】

【不得手・雷魔法】

【属性・知謀】

 本物の強者じゃねえか。

 マレンティが――――、過去のデータを見れば、レベル52。

 あいつは接近戦はアレだったけど、魔法は脅威だった。

 強者か弱者でいうなら前者だ。

 それを遙かに凌ぐレベル……。

 不安になった俺は、左右にいるガーゴイルにもカメラを向ける――――。

 ――……向けて思ったことは、向けなきゃよかった……。だ。

 ガーゴイルのレベルは82と80。

 どっちもマレンティより遙かに上。

 こうなるとゼノのレベルをちゃんと調べなかったのは失態だ。

 あいつを指標として、眼界の敵のレベルとの差を調べたかったな。

 芸達者だし、魔法も接近戦も強かった。

 火龍の装備と皆のフォロー。特にゲッコーさんの圧もあって倒すことは出来たけど、普通の装備で一人で戦うとなると、現在の俺ではゼノには勝てなかっただろう。最終的にはベルが倒してるし。

 マレンティと照らし合わせれば、ゼノのレベルは70行くか行かないかだとは思う。

 だからこそ、去っていくクロウスとガーゴイルのレベルよ……。


「やべえな……」

 ついつい不安が口から零れてしまう。


「何がだ?」


「あの連中。メチャクチャ強い」


「よき戦いとなればいいな。礼節有る御仁との戦いは誉れだ」

 ベルのこの嬉々とした感じよ。

 どうやらこの最強美人は、礼儀の所作からクロウスの実力を理解したようだ。

 こっちとしては圧倒的な力で勝利したかったんだけどな。

 名を轟かせるにはインパクトが必要だったが、下手したら苦戦は必至だな。


「トール殿」

 俺たちの位置まで駆けてくるイリー。

 連絡があったそうで、住人の避難は完全に完了したとの事だ。

 迅速な行動には感嘆する。

 地下道にはドヌクトスの住人が、一ヶ月は飲食に困らないだけの備蓄もあるそうで、それを聞くと、侯爵の辣腕には感服。

 ま、一ヶ月も戦うつもりはないけど。

 

 可能ならば手早い勝利を収めたいが、レベル95というパワーワードが、俺の心胆を寒からしめる。

 避難が完了したことで、心配事が一つ減った分、ここにいる皆が戦いに集中できるってのはいい事だが。

 

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