PHASE-439【皮肉を皮肉で返せる器】

 シャルナが見かねてコクリコを下がらせてくれる。出来たエルフだ。


「じゃあ、どうぞ」


「……ん? ああ! そうですね。では、私は翼幻王ジズ様の子飼いであります。タンガタ・マヌのカイディル・クロウス・ファーディガンと申します」

 あと何回か聞いたら覚えられそうな名前だな。

 ゼノよりは比較的、覚えやすそう。


「気兼ねなく、クロウスとミドルネームでお呼びください」

 俺が覚えられないと判断したようだ……。

 気配りは紳士だな。

 漫画やラノベだと、スーツを着こなして、白手袋。敬語を話して礼儀作法のあるヤツは、大抵が強者説だからな。

 きっと強いんだろうな。

 油断ならない相手にこちらも一礼はするが、隙までは与えない。

 一切、目を反らすことなくの一礼だ。

 対してクロウスはこちらの戦意を割くように、目を細めて微笑んでくる。

 掴み所のないヤツ。人間と違うから表情が読みづらいってのもある。

 クロウスは首を動かし壁上を見渡す。

 見たこともない武器を手にするS級さん達を眺める時の首の動きが、ゆっくりになった事から、やはりアサルトライフルには興味があるようだし、警戒もしているようだ。


「これは何とも難儀そうだ……」

 翼を羽ばたかせる中で、肩を竦めるクロウス。

 コイツの目的は、戦いの前の挨拶と下見だったんだろう。


「ところでクロウスさんは何をしに?」

 分かっているが、あえて皮肉を混ぜて言ってみる。


「こちらを奪還しようかと」

 発言で、周囲に緊張が走る。

 特に兵士や冒険者の面子の肩に力が入るのが見て取れた。

 それに比べて俺の召喚した人達は、リラックスって感じだな。

 声音からして緊張するほどではないからな。まるで冗談を言っているかのような言い様だったから。


「ここは魔王軍にとっても最高の地なのです。東を押さえ、南と東よりこの大陸をいただきます。西からの進行は、遅延が生じてしまいましたからね」


「遅延? 魔王軍もつまずいているんだな」


「いえいえ、貴方方の仕業でしょう」

 ――……!


「ああ! 火龍を封じていた砦か!」

 あそこは魔王軍の中でも鉄壁の要塞。

 火龍を封じるだけでなく、あそこを拠点として、魔王軍は西から攻め立てる算段だったようだ。


 聖龍の長である火龍を捕らえ、更には瘴気による進行の阻害。

 大陸より離れた場所にあった砦は、現在の人類の船ではたどり着くことは難しく、たどり着けたとしてもシーゴーレムの大艦隊にて撃沈される。

 絶対に攻略不可能と思われた火龍を封じていた砦が、あまりにも容易く落とされた事に、魔王軍もかなり浮き足だった状態になっていると、聞いてもいないことを喋々と語ってくれた。

 口の軽いのが多いな魔王軍。ここまでくるとコイツのは、わざとのような気もする。

 でもって、火龍を救い出すという奇跡。魔王軍にとってあり得ないことをやってのけた俺たちをクロウスは拍手で称える。

 全てはバランスブレイカーであるミズーリのおかげだけどな。

 シーゴーレムの強さなんて、理解する前に終わってしまったからな。


「出来れば、その軽口を俺たちだけでなく、大陸全体に聞かせてほしいね。魔王軍はかなりビビってますって」


「内容は承服しかねますが、大陸全体に聞かせてあげる事は請け負いましょう。我ら魔王軍の勝利をいずれはこの大陸にね」


「ぬぅ」

 このカラス頭。ドヤ顔で言ってくれるじゃないか。

 喋々と喋るのは、余裕の表れか。離れた位置で空中に留まっている連中は、それだけ強いって事なんだろうな。

 だが、こちらは負けてやるつもりは毛頭ない。


「ところで――――、サキュバス達は?」


「おん?」


「フェニメルエスを倒したのですから、彼女たちの正体は理解しているでしょう」

 ――…………。


「悪いな。全て討伐したよ。ここにいる面子を見れば、それが容易かったって事は、分かるだろう」


「……そう、ですか……」

 ん? なんか声のトーンが下がったな。

 寂しげな声だ。

 もちろん討伐なんて嘘だし、さっきまで一緒にいたからな。

 今は屋敷で避難している人々のお世話や、誘導をしていることだろう。


 それに、ここで討伐したと言っておけば、彼女たちが自由になるだろうと、俺はそれ以上のことを深く考えることもなく、口からポロッと嘘を吐いてしまった。

 

 ――……これは、コイツが立ち去った後が怖いな……。

 安易すぎる! もっと深く考えるべきだろう。と、ベルやゲッコーさんに怒られるような気がする……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る