PHASE-142【ヘラクレイトス】

 魔王の支配する力は、四大聖龍リゾーマタドラゴンであっても抗えない強大な力だったそうだ。

 いま現在の魔王軍の力は、有史以来、最大のものになっているとの事。


「そんな中で、よくこの火龍ヘラクレイトスを救い出してくれた。マレンティはさしたる存在ではなかっただろうが、瘴気に加え、シーゴーレムの大艦隊によってこの要塞は守られていたはず。絶対不落と言ってもいいそれを突破するとは」

 なるほど。シーゴーレムが鬼門だったのか。

 現状、あの艦隊が破られる事なんてあり得ないと思われていたんだろう。

 

 四大聖龍リゾーマタドラゴンの長である火龍が封じられている割には、内部を守護していたのが、俺が倒せる存在だったからな。


 形だけの要塞責任者だったのかもしれない。

 力のあるのは、世界を統一させるために前線にて活躍してるんだろう。


 普通に考えれば、瘴気が支配し、万が一にも瘴気内で活動できようとも、多数のシーゴーレムが要塞周辺の海域を守護する。

 

 現状の反魔王軍では、攻略は絶対不可能だったはず。


 でも、召喚能力を得て、異世界にやってきた俺には出来ちゃったよね~。

 

 ミズーリが、火龍を封じていた要塞の要となっていた、シーゴーレム大艦隊という、最高難易度をぬるゲーに変えてしまったからな。


 こんな感じで他のドラゴン達も救い出せれば――――、


「だが、ここからは苦難となろう」

 やる気になっていたのに、それを挫くような暗い語気だね。さっきまでは明るい語気だったのに。


「確かに大変だろうけど、ここからはヘラクレスも助けてくれるんでしょ?」


「ヘラクレイトスだ。本人の前で、名前を間違えるとは失礼な。本当に六花の外套を所有する勇者か?」


「ごめんなさい。で、パーティーに入ってくれるんだよね」


「わり、無理」

 おっと、いきなりおっさんらしからぬ返しですよ。

 若者に寄せようと、必死こいてるおっさんみたいですよ。その発言。


「なんで?」


「お前、本当に馴れ馴れしいな」

 だからなんだよ。第二ラウンドか? 

 表でろや。海な! 海で勝負な! ミズーリ召喚するから。


「まあいい、我には我の役目がある。瘴気浄化というな」


「ああ――」

 そうか、救い出す目的ってそうだったな。


「ここいらは我が浄化にあたる。周辺の瘴気地帯は、人が活動できるようになるだろう」


「そりゃすごい」

 ここに来るまで、瘴気で大気が支配されていた。それが解放されるのはいいね。


「もともと、この辺りの瘴気は我が原因。魔王は我ら聖龍の膨大な力を利用し、我らの秩序の力を反転させて、自らの有する瘴気を拡散させたのだ」

 その為の眉間の瘴気入りクリスタルか。


 だが、レゾンから王都付近は、瘴気から解放されるそうだ。


 人々の往来が可能になれば、そこから力をさらに結集させる事が出来るな。


「よっし! 残りのドラゴンも救い出すぞ」

 そうすりゃ魔王まで一気に行けそうだからな。


「さっきも言ったが、難しくなるぞ」

 だからやる気を削ぐような事を言ってほしくないね。


「でしょうね」


「ああ」

 と、火龍に続くベルとゲッコーさん。

 俺だけが分からないのは、疎外感だよ……。


「我は聖龍の長。その長が救われたのだ、残りの守りはどうなる」


「そりゃ――…………、ガチガチになるだろうね」


「そうだ。そして残りの三柱とは、我以上に苛烈な戦いになるだろう」


「マジで! 長より強いのか……。まいったな……。あるあるだけどさ。なんだ、今回は四大聖龍リゾーマタドラゴンのチュートリアルを完了しただけか」


「おい、後半はよう分からん内容だったが、我を完全に馬鹿にしているのは理解できたぞ。我が、他の者たちに劣るとかそういう事ではないぞ!」


「へ~」


「生意気な小僧だ! もう一戦いくか! 今度は本気を出すぞ」

 今度は本気を出すとか。配役がやられ役の台詞ですわ。

 嘲笑しかでない。

 

 この世界の事象を司る存在に、俺は嘲笑で返しますよ。

 ただでさえメタリックな赤い鱗なのに、更に赤く染まってますわ。


「いい加減にしろ!」


「でにっしゅ!?」

 ベルよ、蹴りを入れるな……。

 悶絶する俺を見て、火龍はご満悦だ。ベルを称賛してるし。


「まったく! よいか、我が長であるからこそ、お前達は少しは楽が出来たのだ」

 なんのこっちゃ。

 分からんという顔で返してやれば、


「我は長として、他より力を有している。つまりは心底にて、瘴気に対抗していたのだ。思い出してもらいたいな。お前の大魔法発動後を」

 

 ――――滝のような魔法を見舞ってやる。

 

 俺、走り出す。

 

 鱗を登って眉間へ。

 

 で、ベルとの共同作業である、終の秘剣もどきで亀裂を入れる事に成功――――。


「その時なにか感じなかったか?」


「――――お! そう言えば、俺が頭に乗ってたのに、あの辺りから大人しくなった」


「そうだ! 我が心底で抗っていたからだ」

 なるほど、だから上手い具合に終の秘剣もどきが決まった訳か。

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