PHASE-825【結局、白目】
「おのれ! ヒュウ」
戻ってくる縄鏢の勢いを殺さないようにしつつ、且つ自身の首を支点としてロープを首に当てれば、円運動からそのまま鏢が俺へと再び戻ってくる。
「無茶をするね」
失敗したらグルグルと自分の首を絞める事になっただろうに。
ならないだけの自信もあるんだろうけどさ。
「でも、もう分かった」
俺の剣圧で押し返せるだけの膂力って事は、相手の力はそれだけってことだ。
「ブレイズ」
残火の剣身に炎を纏い、迫ってくる縄鏢を斬る。
縄ではなく、鏢を斬る。
残火の切れ味とブレイズの炎で鏢は原形をとどめない。
「よくも!」
残った縄鏢の軌道は蛇行によるトリッキーなものだが、
「だがらもういいって」
ズバッっと最後の縄鏢も、斬って燃やして溶かす。
「馬鹿な!?」
「実際、良い腕ではあるんだけどね」
でも、俺が今まで対峙してきた連中と比べれば、評価は下から数えた方が早い。
「なめるな!」
「後衛のサポート無しでどこまでやれる」
俺の投げの後に縄鏢が割って入ったことで、俺との距離を取らされた結果、俺の絞め技は回避できたけど、距離が開いた分、連携に関しては穴が空いてしまったからな。
しかも今の一連の行動で、後衛が得物を消失してしまったしな。そっちの勝ち目は薄くなってんだよな。
「なめるな!」
同じ言葉を使わなくてよし。
剣身が見えなくても先ほどみたいに腕を見ればいいだけ。
もちろんフェイントや魔法ってのも考慮してから対応。
でもって――、
「出来ればゲットしたい」
腕の振りは横薙ぎ。
距離を一気に詰めて至近にて両手持ち状態の前腕を片手で止めてやる。
自分よりも明らかに貧相な体つきの俺に、動きを簡単に制されたことが驚きだったようだ。
残火を握ったままの拳を驚く表情の顎に打ち込んでやれば、力なく膝から崩れ落ちる。
「よしよし。この見えない剣は、俺のギルドメンバーの報酬品にさせてもらうよ」
珍しい武器は冒険者から喜ばれるからな。
武器としての強さは未知数だから、もしかしたら大したことないかもしれないけど、コレクションとしては重宝されそうだな。
ネタ武器ってマニアには受けがいいし。
「相棒の武器を返してもらう!」
「得物を失ってまだ戦うつもりか?」
「このアザグンスを侮ってもらっては困る」
無手で構える。
「モンクか?」
「ショウ!」
本当に独特だな。
身を低くしてからの走法は、得物である縄鏢のような蛇行。
中々に速い。
――が、その動きだと湿布にも及ばない。捕捉は容易い。
このまま迫ってくるなら、頭部に拳をぶち込めばそれで終わらせられる。
しっかりと軌道を見極め、低い姿勢から迫ってくるアザグンスの顔面に拳を叩き込むタイミングは頭の中でイメージできている。
後はそれを実行するだけ。
「馬鹿め!」
口角を吊り上げて手を俺へと伸ばせば、
「ヴェノムショット」
なる魔法を発動。
粘度のある紫色の液体が俺へと放たれる。
イグニースで防いでもいいんだけども――。
ビチャリと体に付着。
直ぐさま光となって霧散する。
「くらったな。それをくらえば苦しみによってのたうち回り、むごたらしく死を迎える。だがその前にとどめを刺してやる。俺の慈悲に感謝しろ!」
得意げに腰から弧を描いたナイフを取り出し、俺へと向かって更に加速。
モンクではなかったか。
「死――ねぶぅ!?」
イメージ通りに拳を上方から叩き付けることが出来た。
人間ってボールなのかな? って思えるくらいにバウンドし、俺から離れていく。
プルプルと震える腕と膝での四つん這いでなんとか体を支えつつ、俺の方を見て、
「な、なんれぇ……・」
と、問うてくる。
「悪い。俺、地龍の加護を受けててな。毒攻撃を一切受け付けない完全毒耐性なんだ」
首にぶら下げた乳白色の曲玉を拇指で引っかけて見せてやる。
「……かっ…………」
発言を耳にして納得してくれたのか、支えていた体が崩れてうつ伏せになる。
まあ、自分が使用する魔法が効果を発揮したかしてないかの見極めくらいはしとかないとな。
光になって霧散するとか完全に無効化されたと思うべきだろ。
残心からアザグンスに近づき、前髪をどかす。
「ありゃりゃ」
折角、前髪で隠れていた目が見られると思ったんだけど、目にすることが出来たのは白目だった。
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