PHASE-826【二枚看板撃破】

 よし。これにて二枚看板撃破――。


「おろ……ふぇ……」

 と、思ったけど。


「タフだね」

 ガーズが生まれたての子馬のようなガクガクの足で立ち上がる。

 顎に思いっきり打ち込んだのにな。

 というか見た感じ口がだらんと開いているから、関節が外れているか、顎骨が砕けてるかだろうな。


「か、えへ……」


「いや。どちらかというと、この剣を仕舞う鞘が欲しいんだけど」

 と、アザグンスの背中を指さして返答。

 鞘は相棒である後衛のアザグンスの背中に隠していた。

 長い髪によって隠していたが、うつ伏せで倒れた背中から鞘が覗いている。

 鞘を腰に佩いて剣身が悟られれば、見えない剣の効果も薄まるからな。

 やり方は正解だな。


「きしゃま゛」

 お怒りだけども、その状態で戦えるのか――、


「ふうん。なるほど――ね」

 手にするのは小瓶。ポーションで回復ってことか。

 開いた口へたらたらと流される液体は俺の知るポーションではない。

 ポーションはレッサーが緑茶のような薄緑で、効果が良い物になるにつれ色が濃くなっていく。

 でもガーズが飲んだのは無色透明。


「ポーションじゃないとすると――」

 悪い予感しかしない。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」


「おお。まるでバーサーカー」

 てことは、ベルセルクのキノコによるドープと同じ類いか、腕巧者が有している事からして、キノコの上位互換アイテムってとこかな。

 咆哮し、下顎に手を当てると――ゴキンッと嫌な音。


「――死ね」


「かみ合わせが良くなったようでなにより」

 前傾姿勢からの驀地。

 さっき以上の速さ。


「シャア!」


「おお」

 首を傾げて拳を躱す。空を切る拳打の音は豪腕そのもの。

 一般人が顔面を殴られでもしたら即死って威力。

 右の拳を躱せばワンツーによる左。背中を反らせたスウェーで左を回避。

 いい攻撃だ。白兵だけでなく白戦も得意みたいだな。


「ガァァァァァ!」


「獣じみてるけど」

 やばいクスリが体に回ってきているのか、会話はなくなりただ吠えるだけになっている。

 咆哮同様に獣じみた大味な連撃を繰り出してくる。

 拳を躱し、カウンターで拳を叩き込めばゴロゴロと転がるけども、直ぐに立ち上がって真っ直ぐに攻めてくる。


「なんかブーステッドに近いな」

 薬物の効能には、リミッターを解除するってのもありそうだな。

 痛覚を無くして、地力を大きく向上させるようだ。


「バァァァァア!!」


「――うん」

 でもね。


「ふん!」


「ブォ!?」

 上段から振り下ろした拳が見事にガーズの顔に直撃。

 顔面から地面に叩き付けられて痙攣すれば――、沈黙。


「直線的すぎるんだよ。それだと湿布のマイネンのラピッドと変わらない。あいつのより速いだけだ。素面の時のトリッキーさがなくなってるぞ」

 リミッターが外れることで地力向上の効果は出ているけども、段々と理性がなくなってくると、ただ真っ直ぐで単調な動きになっていた。

 

 見えない剣と魔法なんかを併用したトリッキーさが持ち味だったけどな。

 まあ、その中核をなす見えない剣は俺が所持してんだけどね。


 ドープを選択したことが、ガーズにとって敗着の一手だったな。

 自我を保てなくなっている時点で自滅行為でしかなかった。


「次からは自分でも扱えるようなピリアを習得しろ。薬物に頼ってもろくな事にならない」

 体を強化出来ても、今までの鍛錬で培ってきた技巧が行使できないなら、実質、弱体化みたいなもんだ。

 まだ俺の禁じ手であるブーステッドの方がましだな。使用後は動けなくなるけど……。


「よし!」

 ガーズに対しても残心――――。

 今度こそ二枚看板を撃破成功だな。

 二人が完全に沈黙したところで、有りがたくアザグンスの背中にある鞘も頂戴する。

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