PHASE-827【形状は気持ち悪い】

 ――ふむん。

 剣身が見えないから入れるのにはコツがいるね。

 コツコツと切っ先をぶつけつつ――、三度目で見えない剣を鞘に入れる事が出来た。


「鞘の長さからしてロングソードくらいだったか」

 アザグンスに鞘を預けて戦うってのは本当にいい手だな。

 これを報酬品として与える時、仲間に鞘を持たせるといいよとアドバイスを送ってあげよう。

 勿論、俺のアイディアという形で。

 いいよね。二枚看板には勝ったわけだし。剣と共に知的財産はこの俺がぶんどらせていただきます。

 この世界では強い者が偉いのだよ。


「ハッハッハッ――」

 嘘くさい笑いをしていると、


「ああ! 二枚看板が!」


「倒した相手に対して笑いを向けるとは、それでも勇者か!」

 おっと増援か。間が悪かったとはいえ、勇者らしくない姿を見られてしまったな。

 にしても結構な兵力が分散されているみたいだな。

 こっちの方が兵数も質でも勝っているし、押し込んでもいるけど、ベルセルクルのキノコってのが戦況を面倒にしているようだな。

 恐れを知らないで挑んでくる時点で死兵みたいなもんだし。

 要塞内部も迷路みたいになっているからな。

 前回S級さん達が調べてくれているとはいえ、地図だけの知識と、実際に踏み入っての行動となると勝手も違うからな。

 しかも敵の襲撃もあるからスムーズに進むことも難しい。

 まあ、俺みたいにしっかりと迷子になっている阿呆もいるわけだし。

 ――……自分で思ってなんだが、本当に阿呆だよな……。なんで独りで戦わないといけなかったのか……。


「やってくれたな!」

 にしても団体さんだな。

 といってもさっきの二人に比べれば、佇まいからして驚異はないけども。

 初手の連中と違って、逃げないだけ胆力はありそうだな。


「ファイヤーボール」

 自己満マジックカーブからの魔法など俺には意味がない。

 火系だから受けてもいいけど、それが隙を生じさせることにもなるのでしっかりと防ごうとすれば、


「オラッ!」

 俺の背後から一陣の風が通り過ぎる。

 と、手にしたメイスでファイヤーボールを打ち消す。


「うちの会頭に何してくれてんだ! おん!」


「なんか輩みたいなのが出てきたな」

 メイスにバックラー。スケイルアーマーに腰に佩くのはショートソード。


「ご無事ですかね」

 振り返る首にかかる認識票の位階は黄色級ブィ


「大丈夫だよ。ありがとう、ドッセン・バーグ」

 まさかのドッセン・バーグ。

 元野良ソロの冒険者。

 コボルトの件で亜人差別な発言をしてたけども、ベルのコボルト麾下宣言から肩身が狭くなった可哀想な人。

 俺としては良いタイミングで差別排除の機会をもらえたから、お礼として食事代をこっそりと支払ってあげたら、それを恩に感じてギルド入りした人物。


「おら! こっからは俺が相手だ」

 うむ。どうやらドッセン・バーグだけか。

 流石は元野良ソロさんだけあってスタンドアローンだな。

 俺も人のことは言えないけども……。


「たった二人で調子に乗るなよ」


「まて、二枚看板がやられている。強いぞ」


「だったらあいつ等を倒した二人が新たな二枚看板だ」


「ああ、なるほど」

 なるほど――じゃねえよ。

 なんで勝てると思ってんだよ。

 数は――三十六人。でも多いだけの連中。


「一気に決めるぞ」


「おうさ! 俺が新しい二枚看板の一人だ!」

 勝手に盛り上がり、嬉々として取り出すのは赤い網状からなるキノコ。見た目からして毒々しくて気持ち悪い。

 見てるだけで蕁麻疹が出てきそう。

 この状況で取り出すキノコとなれば一つしかないよな。


「あれがベルセルクルのキノコか?」

 この世界の住人であるドッセン・バーグに聞けば、肯定。


「一気に決めるっていうか、キメるの間違いだろう」

 むしゃむしゃと、よくあんな不気味なのを食べられるな。

 見た目の時点で俺は拒否だな。

 

 ――――ゴクリと嚥下すれば――、


「ヒャァァァァァア!」

 と、ヒャッハー系に早変わり。

 要塞から打って出た連中もこんな感じでハイになったわけだ。

 泥酔者みたいに焦点があってないのが如何にもだな。

 ま、どういった形状のキノコで、どうやって食して、どれくらいで効果が出るのか。というのを目にすることが出来ただけでも、この増援たちからは得るものがあった。

 

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