PHASE-118【呼吸がうるさい】

 魔法を覚えるためには、ネイコスってマナに干渉しないといけないのか。


「ピリアとネイコスなら、ネイコスの方が会得が難しそうだな。魔法が使えるようになるから当然だけど」

 カイルは筋力強化は結構、簡単と言っていたし。


「冗談ではありません! ネイコスもピリアも対なるそんざい。どちらも極めれば、神々の力の如しです!」

 くぐもった声で力説が返ってくる。

 

 大抵の冒険者は、マナのピリアでは、筋力強化までで満足。もしくはそれ以上に手が届かないだけ。

 更なる高みを目指せば、人とは思えない超越の力を得られるそうだ。

 

 文献にもあるそうで、拳一つで大岩を砕き、剣を横一文字で薙ぎれば、眼前の敵は両断され、跳躍すれば飛翔の如し。

 

 ――なるほどね。人気漫画で例えるなら、ネイコスが具現化系で、ピリアは強化系か。

 RPGでもスキルによって、魔法以上の体術能力とかあるしな。

 

 どちらも魅力的。となれば、どちらも覚えないと。


「ネイコスでは、火、水、風、土の四大要素の基礎から始まり、複合もあります」


「例えば?」


「火と風で雷系。水と風で氷結系などがあります」

 メモしていかないといけないな……。

 

 まいったな。雷帝という存在としては、雷系をすぐにでも覚えたいんだが、火と風を覚えないとその先には進まないのか……。


「ひたすらにイメージ。イメージです! 瞑想して、自分は出来ると没入してマナに呼びかけるのです」

 以前も言っていたが、考えるなだの。イメージしろだの。矛盾が鬱陶しいな……。


「呼びかけるって事は、マナって会話できるの?」


「いえ、それは無いです。恭しくするのです」

 つまりはペコペコと媚びればいいのか? 見えない相手に願うか――――。

 まるで神に対する信仰だな。

 信仰による奇跡の力か。

 

 神ね~。

 俺が出会った神は死神だったぞ。

 

 ボッチプレイヤーで、ハードコアゲーマーの疑いがある神だったな。

 あいつに対しては信仰心なんて持てないな~。

 そもそもマナとは関係ないだろうし。

 

 この世界特有の存在であるマナ。


 没入するくらいに集中して向かい合うには、あれがいいかな――――。

 

 露天艦橋に移動して、潮風を受けつつ、結跏趺坐けっかふざで床に座る。


「何をしてるんです?」

 くぐもった声で俺を見ているであろうコクリコ。

 俺は目を閉じてるから動向を見る事は出来ない。


「禅だよ」


「ぜん?」

 心の安定、統一を行って、高みを目指す修行法だと教えてやった。

 

 といっても、俺の禅の知識なんて、漫画やアニメからのものだから、正直、正解はわからない。

 

 自伝を書くことを生きがいにした、中二病を煩わせている少女は、形から入りたがるのか、それとも俺の独特な座り方が琴線に触れたのか、見よう見まねで俺の隣で禅を始める。


 ――……………………!!!!


「集中できねえよ!」

 シューコー、コーホーと、呼吸音がうるさくてかなわん!


「You don't know the power of the dark side.って、言ってみろ!」


「何ですかその魔法詠唱のような言葉は! もう一回、言ってください!!」

 両肩を掴んで、ブンブンと俺の体を前後に揺らしながら催促してくる。

 あかん……。こういうのは、コイツの琴線にしか触れない……。




「はぁ……結局マナを感じ取ることが出来なかったな……」

 欄干に背を預けて空を眺めつつ独白。

 

 さんざっぱら邪魔してきたコクリコは、禅に早々に飽きたようで、直ぐさま艦内に戻っていった。

 禅って発想の切り口は悪くはないと思ったんだが。

 所詮は素人の浅知恵か。

 

 イメージはコクリコのファイヤーボールだったんだが、まあ、簡単に出来てしまうのは、天才かチート持ちだけだろうからな。

 

 素振りと一緒で、地道に寡黙に打ち込んでいくしかないな。

 

 二日間の航行中はひたすらに禅と素振りに励んだ――――。




「そろそろじゃないか」

 露天艦橋でベルが言う。


 俺もそれを理解しているから白刃を一通り眺めて、問題ないと、やおら鞘に戻す。

 キンッと小気味のいい音が響いた。


 航海から二日。問題はなく順調。波も穏やかで平和な海だ。


 ただ、そう思わせないのが、曇天の雲。


 穏やかな海原と違い、空は常に暗い。

 不気味に紫色の大気。

 よくファンタジーである、魔王居城のバックの風景に似た色の空だ。


「なんとも濃い瘴気だな」

 紫煙を後方に流しながら、光景の感想を述べるゲッコーさん。

 心配なので背後に立つコクリコを見れば、


「なにか?」

 と、問題なさそう。

 それどころか――、


「火龍を救い出しますよ! 我が名声のために!」

 こいつは存外、傑物になるかもな……。

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