PHASE-117【二種類のマナ】

「とにかくだ。俺たちはお前の体を心配してるんだよ。分かってるだろ、この世界の住人なら。瘴気を吸い込めばどうなるか」


「私の積み重ねてきた魔導の力と実力なら、容易くはねのけますよ」


「でた、嘘」


「嘘じゃない!」

 初歩魔法とバカ魔法を使うだけのセンスしか無いのが、瘴気をはねのけるなんて出来るかよ。

 お前が可能なら、他の冒険者たちだって苦労してねえよ!


 まったく、ついてきたけども。こんなのが凶暴化したらたまらんぞ。爆弾を抱えて移動してるようなもんだ。

 いつランページボールが、俺たちに向けられるか分かったもんじゃない。

 

 ――……現状でも俺たちに向けてなくても飛んでくるけどな……。


「そのマスクは絶対に取るなよ! 取った瞬間に海に放り投げるからな! マジだぞ! 俺は口にした事は実行するからな!」

 本気で言えば伝わるのか、「分かりました」と、素直に返ってくる。


「あの鏡ってどこにあります?」

 ――……これあれだ。俺の本気の言葉が伝わったんじゃなくて、コイツ、ガスマスクが気に入っているようだ……。

 

 中二病の琴線に触れたようで、スキップで艦内に入っていった。


「……で、火龍が囚われているという要塞はまだか?」

 コクリコの後ろ姿をあきれた目で追った後に、ベルは俺に顔を向ける。


「この速度なら後二日くらいだって」

 今回の戦いはこれまでとは規模が違うものになるだろう。

 ベルは気合いが入っている。


 現在ミズーリは自動航行である。

 といっても、プレイギアのスティックをホールド状態にしているだけだが。俺としては両手が使えるから便利だ。


 だが暇だ。




 ――――なので、


「魔法のコツを教えてくれよ。ダークサイドはなしで」


「散々バカにしておいて、ここに来られるとは!」

 ガスマスクで表情は分からないが、恥ずかしさで真っ赤なのは分かる。


「頼むよコクリコ。我はダークサイドに傾倒せし存在」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ――艦内に入って、鏡のある場所では、決め台詞とポージングをきめていた中二病コクリコに遭遇。

 

 悦に入っているのか、俺の気配には気付いていなかったので、ゆっくりと三日月笑顔で、鏡にインしてあげると、鏡越しに俺と目があった瞬間、恥ずかしそうに背を丸めて小さくなった。

 

 で、その時に口にしていた台詞を真似たら、大声上げて、俺に躍りかかってきた。

 それを躱して、


「教えてくれよ。コツを」


「はぁ、はぁ……。わ、分かりましたよ。台詞部分は忘れてください」

 適当に首肯で返せば、ほっとしている。

 

 首肯で返しただけで、口約束すらしていないけどね。

 コイツの自伝が出版されたら、即座に暴露本の中でこの部分をでかでかと書いてやろう。


「以前も言いましたが、この世界にはマナが存在します」


「うん。そうだったな」


「そして、マナには二種類あります」

 へ~。

 聞いているよと首肯で示し、続きを促す。


「ピリアとネイコス。この二種類のマナによって、人や人ならざる存在は、力を得ます」

 口を挟まず、ただ聞く体勢。

 

 ピリアと呼ばれるマナは、光を司り、ネイコスは闇を司るそうだ。

 

 聞くだけだと、ネイコスってのが魔族なんかが使用しそうだが、そうではないみたいである。

 

 ピリアは光の力によって、マナをコントロール出来る者に、超人のような力を与えてくれる。

 カイル達が使用していたインクリーズってのがコレの恩恵。

 

 対して闇であるネイコスは、自身が想像する力を具現化させる。

 つまりはそれが魔法。

 

 基本的な魔法は、先達者が想像し、具現化させたもので、それらを後の者たちが模倣する。

 そんな中で、新たな想像で新術を完成させる者たちも現れるそうだ。


「偉大なるロードウィザードのコクリコは、きっと凄い魔法を有してるんだろうな~。なんたってロードだもんな~」

 ――……返事がない。ただの模倣者のようだ。


「い、いずれは新術を作り出しますよ……」

 おう、がんばれや……。

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