火龍

PHASE-119【マジモード】

「よくここまで耐えたな」


「ふふん! そうでしょう」

 いつもならベルは賞賛を口にする時は、笑みを見せるんだが、今回のコクリコに対しては、些か呆れも入っている。

 

 名声のためにここまで本当に来ちゃったからね。

 籠もった声でなんとも得意げだ。

 

 ガスマスク生活とか……。テレビの企画じゃねえんだぞ……。

 食事やシャワーとか大変だろう。

 どうやってそれらに対応したのか聞きたいところだな。

 

 その為には――――、


「一時方向」

 まずは攻略である。

 

 ゲッコーさんの声に、皆で目を向ける。コクリコだけが遅れて続く。

 この世界にちゃんとした時計の存在はないからな。うん。先生に頼んで、この世界に時間という概念を作っていただこう。


「――――おお! 偉大なるかな魔王軍」


「た、称えてどうするんですか!」

 落ち着けちびっ子。ただ言ってみたかっただけだ。

 さっきは自信たっぷりだったが、声が震えてるぞ。

 

 まあ仕方ないか。水平線に沿って、シーゴーレムがポツポツと点在。

 ――しばらくすると、点在が線に変わったからな。


「大艦隊だな」

 海賊たちと行動していた三体――、もとい、三隻なんて微々たるものだ。


「これほどとは……」


「ビビってますねコクリコさん」


「な、なんですと~」

 抑揚がないぞ……。

 

 岩石の巨兵には、コクリコの魔法では太刀打ち出来ないからな。

 それどころか海上では、魔法の射程に入る前に大石を投げられて沈没ルートだろう。

 

 まあ、普通の船ならな。


「ぱっと見ただけでも百は超えているぞ」


「百!?」

 双眼鏡で確認するゲッコーさんの発言に、マスクで籠もった声とは思えないくらいに上擦っている。


「さて、どうする?」

 反面ベルは余裕だ。

 海上となるとベルも難しい戦いになるんだろうが、コクリコとは違って全くの余裕。


「あの風格。正に無敵艦隊といっても過言じゃないな」

 あれほどのシーゴーレムが町を襲うとなったら、町は地図から姿を消すことになるだろう。

 だが、俺の発言はベルに負けないくらいに余裕だ。

 

 たしかに、この世界の海戦基準ならば無敵艦隊だ。

 でも、俺たちが乗るのはミズーリだ。

 魔王軍からしたら、俺たちは無敵の存在だ。


「やるか」

 双眼鏡から目を離し、俺へと顔を向けてくるゲッコーさん。

 コクリと、首肯で返す。


 迫る敵に対して、ミズーリの右舷を相手へと向けつつ、


「さあ! これからミズーリの真の力を解放する!」


「まだ何かあるのか?」

 ただでさえ圧倒的な破壊力を有しているのに、その上があるのかと、さっきまでの余裕とは違い、ベルは驚いている。


 あるんだよ。と、大きな首肯と、自信に満ちた笑みで返す。

 決して力に溺れているわけじゃないぞ。


「こいつはストーリーモード限定使用だ」


「ストーリーモード?」

 疑問符を浮かべるのはベルだけじゃない。残りの二人も首を傾げている。

 そりゃそうだ。ゲーム内の話だからな。

 

 ミズーリだけでなく、残りのアイオワ級には、ストーリーをクリアした攻略特典で、ストーリー限定で楽しむだけの兵装がある。

 

 もちろんオンライン対戦では使用出来ない兵装。

 

 PC版だと、限定兵装をオンラインでも使用可能なチートを行っている奴らもいるとか。

 

 アカバンくらって終わりではあるが、セラはシステムの書き換えが成功している時点で、大半のチーター達の目的は達成しているから、アカバンは毛ほども思っていないとかなんとか、あの世で言ってたな。

 

 だが、この世界で生き抜くためには、チート能力だって許される。

 俺と、俺の周りの人々、ひいては世界のため!


「ミズーリよ! 本気を出す時だ!!」

 プレイギアを操作すれば、瞬時にミズーリの全体が輝き出す――――。

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