PHASE-563【アスタ・ラ・ビスタ ベイビー】

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!」

 と、ゲッコーさんが咆哮しながら、ノリノリで7.62㎜を吐き出していく。


「ギュグゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」


「効いてるぞ! 皆して一気に畳み掛けよう」

 ――――飛び散る鱗に腐った肉片。

 血の代わりにドロドロの黄色い膿が着弾場所からしたたり落ちてくる。見てるだけで吐瀉りそうになる光景だ。

 ベルとゲッコーさんによる弾幕と、コクリコとシャルナの魔法の連続攻撃。

 筋肉が刮ぎ取られ、胴体部分からはあばら骨が露出してくる。

 なんともグロテスクだが、あと少しで倒せそうでもある。

 デカいし力も凄いけど、動きはお世辞にも速いとは言えないからな。安全圏から攻撃をし続ければ勝てる相手だ。

 パワー型は遠距離からチクチクと削るに限る。

 まあ俺はモロトフを二本投擲しただけだけど。


「ファイヤーボール」

 ――に固執してライトニングスネークを使用しないのは、俺のモロトフへの対抗心から。

 ボフッと音を立てて爆ぜる火球。

 爆炎で照らされるドラゴンゾンビの表情は生者に対する憤怒。

 生気のない赤い目で俺たちをしっかりと睨む。


「しつこい」

 新しい弾帯をM60に装填。

 あっという間に100発を撃ちきったわけだけど、それでも倒れないのは流石というべきか。

 ベルもリロード。

 腹部からのあばら骨は、先ほどよりも露出範囲が広くなっている。


「ダネルMGLでも使った方が早いかもな」

 リボルバータイプのグレネードランチャーね。

 確かにそっちの方が早そう。


「ん? なんか肋の隙間から」


「若干だが紫色の煙が漏れ出しているのが見て取れるな」

 毒ブレスに似た煙からして、あれも毒性があるだろう。

 

「ファイヤーボール」

 再びコクリコが唱える。

 火球は腹部に直撃せず、触れるその手前で爆ぜてしまう。


「あれ!?」

 ファイヤーボール職人が驚く。

 コクリコほどの職人となれば、手応えが無いというのが直ぐに分かるようだ。


「どうやらあの煙は引火性が強いみたいですね」


「そのようだ」

 ダネルMGLを取り出すのを止めて、M60で射撃体勢に戻るゲッコーさん。

 勝機ありだ。

 ゲッコーさんが射撃を再開。

 挑発するように頭部に狙いを定める。

 乱杭歯の牙の一つが、金属音のような音を響かせながら欠け落ちた。


「虫歯治療だ」

 と、口端を上げて発言すれば、その言葉を理解している訳ではないだろうけど、


「ガァァァァァァァァァアアアアアッ!」

 今までで一番の咆哮。

 仄暗い叫びでもあるけど、今回のはドンッと体の芯まで音の衝撃が届いてきた。

 長い首が蛇が鎌首を上げるかのような動作へと移行。

 再びブレスを準備していると見ていいだろう。

 その証拠に、先ほど同様に長い首の各所から毒霧が漏れ出す。

 どういった体の構造なのかは知らないけども、呼吸に連動するように、肋部分からは首とは比較にならないほどの大量の紫色の煙が漏れ出している。

 煙によって、巨躯の胴体部分が隠れるほどだった。


「ここぞ攻め時!」

 三本目のモロトフを雑嚢から取り出し、さっきみたいにバックラーサイズのイグニースを顕現。

 注ぎ口をそこに当て、着火を確認したところでピリアによる腕力に物を言わせた投擲。

 ドラゴンゾンビが纏う毒煙へ向かって一直線に、モロトフが炎の軌跡を描きながら飛んでいき――、


「アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー!」

 俺の発言に天も空気を読んでくれたかのように、発言と同時に布きれに着火した火が、肋から漏れ出す大量の煙に触れて爆発。

 遅れて瓶の中に入ったガソリンも爆発。

 連鎖爆発による轟音とともに、ドラゴンゾンビの胴体部分が大きく欠損し、爆発の威力に押されるようにして、巨体が地を揺らしながら倒れる。


「ガフゥゥゥゥゥゥゥ……」

 起き上がろうにも大きなダメージが原因で動けない。

 仕方の無いことだ。腹部に大穴が空いているし、右の前足と後ろ足、右の羽が根元から欠損してしまっている。

 アンデッド故に痛みを感じる体ではないから、ドラゴンゾンビ自体は動けると思っているんだろうが、欠損してしまえば自身が思っているような動きは当然できない。


「効いている。あれでは我々に攻撃を仕掛けることはもう出来ないだろう。見事な時宜に効果的な一撃だった」

 ベルからの称賛に手を軽く挙げて返礼。

 これ以上の戦いは無意味ということなのか、ベルはグリューセンを宙空にしまい込む。

 ゲッコーさんも同様にM60をしまい込み、SG552に装備を戻した。

 チート二人が平常に戻る。即ち勝利確定って事だ。

 終始、遠距離からの嫌らしい攻撃で勝利。

 勇者なら腰に佩いているので接近して倒せって事だろうけど、クレバーな戦いで味方に損耗を出さないことが大事。

 

 もし飛行魔法とか使用出来るなら、相手の射程範囲外からの上空で、銃火、魔法による連べ打ちが最適解だろうな。

 そういった戦術を選択するならハインドなどの攻撃ヘリが適正だが、今回はハインドを出すまでもない相手だった。

 そもそも俺は操縦が出来ないからゲッコーさん頼みになるんだろうけど。

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