PHASE-1540【尋問対象】
「今度は気をつかうことのない場所で戦いたいものです」
「いいでしょう。再戦となれば受けましょう」
勝者側として存分に上からな感じで振る舞うコクリコ。
「それと――後腐れがなくなり、そちらとの関係性が良好となれば、指導をお願いしたいのですが」
「あら」
コクリコからの謙虚な発言。
羨望の眼差しを向けていたからな。
クロウス氏の力に惚れ込んだのかもしれない。
「再戦の受け入れ感謝いたします。可能となれば指導もいたしましょう。ロードウィザードである女史の指導役となれば、後世の歴史に名を刻むことになるでしょうからね」
「分かってますね~」
クロウス氏が執事然とした一礼を行う姿に、残りの面々は苦笑気味。
でも、和やかな空気が漂い始める。
「しかし見事な一撃でした。こう見えて以外と打たれ強いのですがね。勇者殿の炎の杭で意識が飛ぶ刹那、死を錯覚したほどでしたよ」
「自分としては必死になって打ち込んだだけで、勝利したといった感覚はないんですよね。むしろ膝蹴りを受けた事で、あの状況から速さで負けたというショックのほうが大きかったです」
「その素直さと謙虚さが強さに繋がる秘訣なのでしょう」
なんて嬉しい事を言ってくれるのだろうか。さっきまで命の取り合いをしていたとはおもえない器のデカさだ。
圧倒的強者。この地においての大立者という立場。素直に負けを認めることができるもの大物ゆえか。
潔すぎるから何か狙っているのか? と、いらぬ邪推までしてしまう。
「再度の確認ですが、ここでの勝利はトールと我々で間違いないですね?」
コクリコによる念押し。
いつもなら自分が前に出て、自分がもたらした勝利を醸し出すけど、今回は俺を立てるように後方に立ったまま。
差別化するように、俺だけ我々に含めず個人名だったし。
立ててくれるのは嬉しくもあるけど、何かしらの思惑があるのでは? と、クロウス氏の潔さ以上に勘ぐってしまう俺は心の狭い男です。
「無論」
「二言はないですよ」
「もちろんでございます」
コクリコの念押しに対しても柔和な笑みで返してくるだけ。
先ほど苦笑気味だったアル氏も頷いていた。
ラズヴァートは面白くないといった感じが顔に出ていたけど、大立者が認めるなら仕方なし。と、口を挟むことはなかった。
「もう二度とあのような一撃はもらいたくありませんからね」
と、俺を見つつクロウス氏。
よほど俺の一撃がこたえたようだ。
その一撃に実感がない俺は作り笑い。
烈火とボドキンによる合体技。
炎の杭と評してもらった一撃。
――おっし。
「烈火――ボドキン」
とりあえず、どんなものなのか自身の目で確かめないことにはね。
その為にはもう一度、発動させるのが一番。
で、これを――、
「こう!」
両拳を勢いよく突き出せば、
「おお!」
がむじゃらに打ち込んだラッキーパンチによって誕生した技ではあったけど、一発成功ってところかな。
拳を突き出したと同時に、左拳のボドキンを解き放てば、球体の姿だった右拳の烈火が変形。
クロウス氏の言うように細長い杭状の姿に変化し――ボフンッ! と、大きな音を立てて消滅。
ボドキンが炎を纏って体内を直接攻撃か……。
――……ボフンッと爆ぜる音。
――……これが体内を襲うわけだ……。
「あの……。大丈夫ですか?」
「大丈夫……とは言いがたいですね……。かなり無理をしております……」
柔和な笑みの中に隠していた苦痛が、俺の問いかけをきっかけに表に出てくる。
ヒールを唱えても体内のダメージが癒えるのに時間がかかっているようだった。
火龍装備である残火による斬撃ダメージは回復阻害を起こす。
同様の素材で出来ている籠手の力によって顕現させたイグニースによる烈火にも、回復阻害の効果が反映されているわけだ。
しかも体内への直接ダメージだしな。
発動は成功しても習熟はしていない。
でも、この威力。
極めれば一撃必殺の技になる。
新たなる技の可能性に両拳を強く握る中、
「根治していないところ申し訳ないが、こちらが勝利したわけだし、素直に主の元に案内してくれるとありがたいんだけどな。執事さん」
次の展開へ移行しようとゲッコーさん。
「眼光を鋭くしてこちらを睨んでも、それだけは受け入れられません。ゲッコー殿」
「場所を聞き出す手段ならいくつかあるんだけどね」
酷薄な声音はユーリさん。
和んでいた空気が一瞬にして吹き飛び、凍りつく……。
尋問はゲッコーさん以上に得意な人物。
尋問もいろんな方法があるからな。ユーリさんの場合、とてもおっかない方法だったりするのかな……。
「ユーリさんが実行しないためにも、素直に居場所を教えてくださると有り難いんですが」
「勝者である勇者殿のお願いであっても、主が現在おられる場所はお教えできません。どの様な拷問にも耐えますし、必要とあらば己で命を絶つことも厭いません」
「ううん……」
自裁覚悟となれば強くは出られない。
クロウス氏は敵であっても素晴らしい御仁。死んでほしくない。
「じゃあこの中で一番、口を割りそうなのは――」
やおらお視線を動かすユーリさん。
向ける相手は――、
「ボ、ボク……」
天井で待機しているポームスが弱々しく自らの食指を自らへと向ける。
「そうだよ」
このユーリさんの声にビクリと体を震わせるポームス。
乗り手の恐怖が伝播したかのように、ちびっ子ワイバーンも同様の挙動。
心の底から恐怖しているようで、騎手、竜ともに目がウルウルしだす。
クロウス氏と戦えるだけの実力を有した者が発する酷薄な声音。
バラクラバから唯一みえる冷たい目。
あんな目で凝視されれば、俺なら直ぐに喋っちゃうね。
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