PHASE-1541【後は一本道】
今にも潤んだ瞳が決壊しそうなポームス。
圧をかけてくるユーリさんの視線を遮るように翼を羽ばたかせて宙に留まるクロウス氏が――、
「それは下策です。主の元に辿り着けたとしても、辿り着けた理由を知ってしまえば、勇者殿たちの心証は最悪となるでしょう」
本心からの言葉だったのか、クロウス氏の声には凄味があったし、アル氏とラズヴァートが強く頷きその発言を支持。
「やめた方がいいようですよ。ユーリさん」
「冗談で言っただけなんだけどね。子供に対してそんなことはしないさ」
「ボクは子供じゃないよ!」
言い返してくるものの、天井部分から降りてこようとはしないポームス。
「もし幼子に手を出すという暴挙を実行しようものなら――」
「「「「ん!?」」」」
頼りになる声が耳朶に届く。
俺達がここへと入ってきた扉部分へと皆して一斉に目を向ければ、それに合わせたようにして、
「ゲッコー殿の同志であったとしても、一切の手心を加えることなく倒さなければなりませんでした」
カツカツと足音を立て、こちらへと歩んでくる存在が継ぐ発言は、ユーリさん以上の冷たい声。
「ハ、ハハハ……」
その声にバラクラバの内側から渇いた笑い声が上がる。
出入り口部分にて待機していたスケルトン達が気圧されるように道を開くことで、声だけでなく全身を目にすることができた。
「よくここが分かったな――ベル」
最強さんが合流。
「戦いの気配を感じ取ったからな。来てみれば終わっていたようだが。そしてやり取りからして勝ったようだな」
「おう、皆の力を一つに合わせての勝利だったよ」
「そうか。双方、流血が少ないようだ。となれば、関係改善のきっかけにもなる」
言いながらクロウス氏を瞥見すれば、恭しい一礼のクロウス氏。
俺達には執事然とした典雅な一礼だったけども、ベルの強さを肌で感じ取ったからなのか、深々と頭を下げたお辞儀スタイル。
このクロウス氏の所作だけで、ベルが俺達とは違う存在なんだなと痛感させられる。
「兄ちゃん!」
「おうミルモン! 元気な声は無事の証拠だな」
「こうやって合流できて良かったよ」
「そうだ……な」
嬉しくはあるが、俺との再会でベルの肩に乗っていたミルモンが直ぐさま俺の肩へと移動したことで、今まで左肩を貸していたベルはなんとも寂しそうな顔。
嫉妬を俺にぶつけられるのは御免こうむるが――それはない。
原因は天井。
「天井の君、降りてくるといい。我々が危害を加えることはない。加えようとする者がいれば、私が駆逐してやろう」
「相手は敵なんですけどね……。その敵のためにこちらが駆逐されるとなればたまったものじゃないですよ……」
「だな……」
呆れるコクリコに返しつつ、ポームスの次の動きを窺う。
どうするべきかとクロウス氏とベルを交互に見れば、
「問題ないでしょう」
クロウス氏のこの言葉に素直に従い、降りてくるポームス。
「おお!」
同じ目線となったところで喜色の声を上げれば、
「な、なんだよ……」
喜色に対し、背を反らしながらも逃げないという気概を見せてくれるポームス。
「私はベルヴェット・アポロという。君は?」
「ポームス・ポルロック。このワイバーンはキクリク」
「そうか、丁寧な自己紹介ができて偉いな」
丁寧ではない。至って普通の自己紹介だが、ベルにはそう見えているのだろうから口にはしない。
ミルモンが離れて寂しくはあったけども、新たなる可愛いを目にしたからそちらに興味が向いたご様子。
そう考えると、ベルって以外と節操ないな。
もちろん口には出さないけども。
――俺達だけでなくクロウス氏たちも蚊帳の外に置き、ベルはポームスと会話を楽しむ。
とてもご満悦な表情で……。
クロウス氏という強者に勝利を収めた俺も、その表情で褒め称えてほしいもんだよ……。
今回はそういったお褒めの言葉が一切ないですね……。
「そうか、ここの主の生活の世話をしているのか」
「そうだよ」
「ここの主が羨ましい。君のような素晴らしい逸材に身の回りの手伝いをしてもらえるのだからな」
心の底から
ソレを目にするベルはさらに興奮するといったところ。
「あの、ベルさん。談笑中に申し訳ないんですけど――」
「どうした?」
「俺ら――勝ったんだよね~」
「そうだな」
「ソーナンス」
「今度は一人でも勝利できるようにならなければな」
「あ、はい……」
もはやポームスとちびっ子ワイバーンにご執心ってところだな……。
小さなモフモフサイズがわずかに心を開いてくれたからか、会話が更に弾んでおられる……。
これは当分、邪魔をしてはいけないようだな……。
「ミルモンもご苦労だったね」
話し相手を変更。
「う~ん。全く苦労しなかったよ」
スカイフィッシュをくぐり抜けたのち、いくつもの戦闘があったそうだ。
――ここに来る道中で出会った連中は明らかに強い部類だったけど、お姉ちゃんが話し合いをし、交渉決裂となれば戦闘の火蓋が切られた。
で、火蓋が切られると同時に倒す。
これの繰り返し。
オイラはそれをただ見てるだけだったよ。
――と、ベルトに差したサーベル・クロモジの柄を握りながら不満を漏らしつつも、ベルの他を圧倒する強さを近くで見たことで優越感を抱いたようだった。
「自分が強くなったような錯覚を起こすだろうけど、それは違うからな」
「分かってるって。次元が違いすぎるからまずそんな事は思わないよ」
「だよな。でさ、ここへ辿り着けたのはベルの感知だけで――だよね?」
「そうだよ。オイラの能力はまだ健在だよ♪」
「素晴らしい」
クロウス氏には勝利した。
となれば後はこの要塞の主と出会うのみ。
ここからは一本道だな。
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