PHASE-674【二度もぶった】

「あの水の幕、プロテクションの下位みたいなもんか。いいなあれ」

 頑張れば俺も直ぐに使えそうな気がする。というか使いたい。

 俺のような強者じゃないポジションでもっとも大事なのは、自分や周囲の命を守ることだからな。

 防御に特化するのは大事だ。

 イグニース以外にも使えるようになっておきたい。火龍装備がないという状況下だと必須になる。

 今後もこういった状況が訪れると想定しないといけないからな。


 ウォーターカーテン。コクリコが言うには低位の水魔法らしいけど、中位くらいまでなら一撃は防ぐ事が可能という。

 もちろん威力に左右されるらしいけど。

 その部分を説明するコクリコは、何とも悔しそうな語調だった。

 強化されたライトニングスネークが相殺されたからな。


「お返しだ」

 と、アイスブリックの連射。

 ブロックサイズの氷塊の連射は驚異だが、コクリコのファイヤーボールがまたも防ぎきる。


「伝説と謳われるドラゴンですがやはり大したことな――いや、流石は伝説のドラゴン。やりますね」

 ――……あ、こいつ。ミストドラゴンを強敵ポジションとすることで、自分の自伝に燦然と輝く戦闘の記録として書き綴るつもりだな。

 

 幻術には翻弄されたけども、強さはさほどじゃない。

 これなら問題ないだろう。

 今回はコクリコがとても活躍しているので、後に執筆する暴露本には、リン達との戦い同様、しっかりと活躍したというのは真実としてちゃんと書いておこう。


「これならどうだ!」

 アイスブリックを塞がれたミストドラゴンが口を先ほどよりも大きく開く。


「エクトプラズマー」

 まず口を開いたまま喋れることに感心してしまう俺は余裕をもった存在。

 口から出て来るのは白い霧。

 ブレス系かと思ったけども、霧は姿を変えていき、四足の獣型になっていく。


「霧の眷属ですね」


「その通りだ。やれ!」


「おもしろい」

 コクリコのテンションが高い。

 ミストドラゴンの下命により動き出す霧のモンスター。

 吐き出され漂っていた霧も、次々と獣型へと変化し、俺たちへと突っ込んでくる。


「結構な数だな」


「数だけですよ」

 と、ここで貴石を輝かせての、


「アークディフュージョン」

 非殺傷の範囲魔法。

 一体に当たれば次々と電撃の糸が他へと伝播していく。


「無駄だ!」

 強気に返してくるミストドラゴンの言うように、お構いなしに向かってくる。


「ならば!」

 俺が斬撃で斬って捨てる――、


「て、あれ?」

 つもりだったが、まったく手応えがない。

 空を切るとは正にこの事とばかり。


「魔法も物理による攻撃も通用しないとは」


「また幻術だったりするんじゃないか」


「なるほど!」

 と、次にはパチーンと頬に走る痛み。

 原因はコクリコの平手。

 衝撃がジワジワと、熱を帯びた痛みへと変わっていく。

 幻術なのか調べたいのは分かるが、まずは許可を取れ! 怒り心頭なんだが、俺としてはこういったシチュエーションになってしまうと、


「二度もぶった。親父にもぶたれたことないのに!」

 って、条件反射で言ってしまうあたり、危機感というものがない。


「随分と甘やかされて育ったんですね」

 と、当然ながらネタを知らないコクリコは俺を冷ややかな目で見てくる。

 どうやら俺の事を温室育ちだと思ったようだな。

 コイツは忍び込んで飯を食ったりするようなヤツだからな。雑草魂という言葉が似合う。

 だからこそ、温室育ちに嫌悪感を抱いているのかもな。


「……あれだから、母ちゃんからはよく蹴られてたから。全くもって温室育ちじゃないぞ」


「そうですか。それは良い母親をお持ちで」

 異議あり! と言って否定したいが、異世界に居もしない母ちゃんの気配を背中に感じる辺り、俺はしっかりと母ちゃんから教育を受けていたんだと理解する。

 厳しくはあったけど、休みの時なんかは自由にさせてもらってたから、コクリコの言うように良い母親なのかな。

 父ちゃんは常に尻に敷かれてましたが……。

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