PHASE-100【海戦終結】
「ベルの発言が正しい。ごめん」
「そうか」
ほっとしたように胸をなで下ろしている。
さっきの俺って、そんなにも醜く、悪い顔だったんだろうか……。
「よかったな」
と、ゲッコーさんが、いつの間にか背後に立っていた。
本当に心臓に悪い。
「このままだったら、魔王から標的が変わっていたぞ」
――……継いで出た発言。本当に心臓に悪いよ……。
目も口元も笑んでいないし、ハードボイルドの鋭い眼光は、俺の背筋に冷や汗を流させて硬直させる。
蛇に睨まれた蛙とは、正に今の俺だ……。
「斉射によって、海賊たちは及び腰だから――――」
砲艦外交の次なる一手。恐喝にも似た交渉を実行。従わないなら攻撃を実行。
無論、強さに溺れて嬉々としてはいけない。これを肝に銘じて行う。
二人に伝えると、静かに首肯だけが返ってくる。
『今の攻撃を目にしただろう。降伏してくれるとありがたい。あと、お宅らのアジトも教えてもらう』
強気で応対。圧倒的な力を見せたんだ。ここで素直に従ってくれると有りがたいんだが。
海賊からしたら、スピーカーなんて分からないから、とてつもなくデカい鉄の船の怪物が、人語を話してると思っているようで、双眼鏡で窺えば、慌てふためいている。
「お?」
ゲッコーさんが何かに反応する。
遅れて、ミズーリにガインと音が響いた。
「バリスタ使ってきたぞ」
なんて愚かな。そんな物に何の意味があるのか……。シーゴーレムの攻撃だって意味が無かっただろうに……。
こっちが撃てば、ゴーレムと違って、命がなくなるんだぞ。
「しかたねえな~。前進」
言って、俺がスティックで操作。
接近して威圧してやろう。
「アボルダージュだけは避けるんだぞ」
なんですかねゲッコーさん。アボルダージュって?
――映画なんかで、海賊がロープを使用して、相手の船に向かってヒャッハーする移乗攻撃のことらしい。
ヒャッハーされたくないので、距離はとっておこう。
『ほら、降伏しろ。お前たちと違って、俺たちは命を容易くは奪わない。抵抗するなら仕方ないが』
――――返ってきたのは、ガインという金属音。
またもバリスタからの攻撃。慌てふためいているわりに、攻撃だけはしてくるんだからな。
「連中は混乱しているようだな」
涼やかなベルの声。
なるほど、混乱しているから、自分たちが何をすればいいのか分からないのか。
しかたないな。
12.7㎝砲を動かす。本来なら動かすのにも人員を要するんだろうが、俺一人で全部できちゃうゲーム内テクノロジー。
本当は海賊船を鹵獲して、港町の人達が失った船の代わりにしようと思ってたんだけども、一隻は警告のために沈んでもらう。
『今から手前の船を一隻沈める。こちらに攻撃をしないで、標的になった船の人達は逃げてね』
それを聞けば、バリスタで狙いを定めていた海賊が左右に首を振って、周囲を確認し始めた。
周りの連中も同じような動きだ。混乱しているようだが、前もって撃沈発言を行えば、お互いが目配せをして頷くと、海に飛び込み始める。
一組がそうすれば、後はそれに続けとばかりに、次々に海へと飛び込み、側の船に引き上げられていた。
そういう連係は出来るんだな。
これなら撃たなくていいとも逡巡したけども、撃たないと相手を調子づかせるからな。
「発射」
ズドンと撃ち込めば、木造の船は木っ端を舞わせながら、穴から海水が浸水し、ゆっくりと沈んでいく。
『もう分かってるよな、どうやっても勝てっこないって。挑むなら次は、シーゴーレムに使用したデカいのを使うぞ』
脅すように、40.6㎝の長砲身九門を残った二隻に向ける――――。
「マストの海賊旗が降ろされていく。この世界もルールは同じようだ」
旗を降ろすのは、降伏を意味するそうだ。もしかしたらルールが違うかもしれないからと、ゲッコーさんは続けて監視する。
――――降伏の合図で間違いなかったようだ。
海賊たちが船端に集まり、武器を海へと捨てていく。
「勝ちだ」
「よくやった。力に驕らなかったな」
湛える微笑にこっちの鼓動は早くなるってもんだ。
「――――よっし! 勝利です」
綺麗に敷き詰められたミズーリの木甲板に移動したコクリコが大音声。
まるで自分一人で勝利したかのような高らかなものだ。
その証拠に、早速インクの入った小瓶に羽根ペンを突っ込んで、捏造自伝制作のための記録を始める。
で、ふと思った。
「アレはいいのか? 虎の威を借る狐ってやつだぞ」
コクリコこそ、力に溺れて捏造までしてるんだが。
「かわいいものだろ」
ありゃ、そこは甘い判定だな。可愛げのあるものだからいいのかな? 俺とは違うベクトルだって事か。
俺のは暗黒面だったんだろうな…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます