PHASE-1108【バレバレじゃねえか!】

「ほら、残りも教えてやる」

 ついでに俺が習得しているのでコクリコが使用できそうなのを教えよう。

 流石にブーステッドとかは使用できないだろうけど、低位のピリアならマナがちゃんとコントロール出来るコクリコなら問題なく扱えるだろう。


「いいでしょう。教わって上げましょう!」

 ビジョンの利便性にテンションが上がり、自分の持ってるポリシーが崩壊してんな……。


「駄目だ。それ以上は甘えだ。私が許したのはビジョンだけだ」


「…………え~、最強さんがああ仰っておりますので、本日はビジョンだけとなります。ご利用ありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそありがとうございます。またの機会に……」


「本日は――ではない。またの機会――でもない。後は自力で習得しろ」


「「あ、はい」」

 ベルの気迫ある発言に、俺とコクリコは素直に首を縦に振るしか出来なかった。

 コクリコだけでなく、俺に対しての発言でもあったんだろうな……。


 ――。


「欲を言えば、集落に辿り着く前にカゲストを拘束できればいいんだろうけどな。初動からして相手は既に集落だろうが」

 と、ゲッコーさん。

 エリスを拘束しての移動となれば速度は落ちると考えられるけど、何かあればポルパロングの私兵たちは集落に移動するって事だったからな。

 カゲストにも取り巻きがいるだろうから、そいつ等が運べば移動速度が落ちるって事はないだろう。

 しかもこっちは樹上移動ではなく、下生えの中を慎重に進んでいるから、そもそもが追いつけないよね。


「いまここで無駄に考えを巡らせても悪い方にしか考えません」

 リンファさんからの発言だった。

 責任を感じていても沈着冷静な行動が出来る方のようだ。


「お姉ちゃんに賛成だけど、ルーシャンナル――道から外れてない?」


「僕もそう思います」

 ここでシャルナとサルタナが、先頭で誘導するルーシャンナルさんに道が逸れていると指摘。


「当然です」

 と、一言だけ返す。

 樹上方面の警戒が強いから下生えの移動となっているが、だからといって堂々と正面からいくなんて考えられない。

 遠回りをしながら徐々に接近していくというのがここではセオリー。

 なのでルーシャンナルさんの誘導を信じるべきだろう。

 

 と、信じてしばらく進んだところで――、  


「……あの……申し訳ありません……」

 急にルーシャンナルさんからの謝罪の言葉。

 なんとも弱々しい声音だった。


「こりゃ困ったの」

 ギムロンが背負っていたバトルアックスを諸手で握る。


「どうやらテリトリー内だ。上手い具合に囲まれているようだな」


「ですね」

 ギムロンに続いてゲッコーさんはMASADAを宙空から取り出しサプレッサーを取り付ける。

 俺もそれに続いて抜刀。


「サルタナとリンファさんは隊伍の中央に。ルーシャンナルさんは二人の護衛を任せます」


「心得ました」

 素早く隊伍の位置を変更し、前衛として俺とギムロンが前へと出て、その後方にゲッコーさんが立ってくれる。

 ベルとコクリコ、シャルナとリンがツーマンセルにて左右に展開。


「よく見えますよ。ミストウルフですね」


「そうだ。物理攻撃は通用しないぞ」

 そう返せば、コクリコが選択するのはフライパンではなくワンド。

 先端にはめ込まれた貴石を煌めかせて戦闘態勢。


「あんまり派手なのは使うなよ。音で――」


「アォォォォォォォォン!」


「まだ喋ってる途中でしょうが……」

 って、いうか……。


「今の遠吠えはなに? 明らかに嫌な予感しかしないんだけど……」


「十中八九、伝達だろうな」


「群れにって事を願いたいんですけど」


「それは――難しいと思うぞ」


「ですよね……」

 ゲッコーさんとやり取りをする最中、悪い事だけが頭内を駆け巡る。

 ミストウルフはこの国の森に生息する野生の生物ってことだが、もしそれを飼い慣らしていると想定すると、今の遠吠えはその飼い主への伝達だと考えるべきかもしれない。


「会頭。ミストウルフの知能が高いのは以前の事で覚えたよな」


「ああ」


「で、今までエルフ達を襲うことがなかったのに、そのエルフ――サルタナとハウルーシを襲った。何者かの意思を感じやせんか?」


「ギムロンの言は正しいだろうな。その何者かってのがダークエルフ達の中にいるのかもしれない」


「いや、それならばハウルーシなる少年は攻撃対象外となるだろう」

 と、ベル。

 ダークエルフ達の協力者が飼い慣らしており、まだ連携がうまく出来ていなかった状況下で生じたイレギュラーだったのだろうとベルは推測。

 まず当たっているだろうな。


「となると、この状況で飼い主として濃厚なのはカゲストか――」

 あいつがミストウルフたちを飼い慣らしてるのかもしれない。

 あいつならダークエルフの子供とハーフエルフの子供がどうなっても問題ないと考えるだろう。

 大事の前の小事で片付けるだろうからな。

 

 というか……、俺たちの行動バレバレじゃんよ……。

 大勢だと捕捉されやすいから、まずは少数でって城では言ってたのにな……。

 エルフ王やルミナングスさんに顔向けできねえ……。

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