PHASE-1109【強者が狼に甘いよ】
「で、どうするんだ? 飼い主がカゲストなら確実にこちらの行動が発覚したと考えるべきだろう」
「ですね」
最悪ダークエルフ達も戦闘に駆けつけてくるだろう。
更に最悪を想定するなら、そのダークエルフ達が既に呪解がされた状態となっていて、魔法の使用が可能となっているってところだろうな。
武装も逆テーパーの棍棒じゃなく、戦闘に特化した本格的なモノへと変わっていると考慮すべきだね。
――……いやでもだよ……。
こっちは感知能力が秀逸なベル。潜入に関しては神と言ってもいいゲッコーさんがいるんだぞ。
なぜにこうも素早く先に感知、発見されるんだよ……。
どう考えてもおかしいだろう。
「考えるのは後にしろ。まずは脅威に意識を集中だ」
俺に注意しつつ、威嚇なのかこちらへとゆっくり接近してくる一頭のミストウルフに対し、ゲッコーさんがMASADAから弾丸を数発撃つ――。
「――なるほどな。効果はないとみていいな」
と、威嚇に対してゲッコーさんも牽制射撃。
当てることはなかったが、発砲と同時に向かって来ていた狼が霧へと姿を変えるのを目にしたことで、弾丸による攻撃は意味がないということを確認。
狼も不思議な武器だと判断したのか、威嚇を止めて後方に下がってくれる。
次にゲッコーさんが手にしたのは、炎でダメージを与える事が可能な焼夷グレネード――なのだが、手にするだけで投げようとはしない。
手にしながら俺を見るだけ。
――……なるほど……ね。ゲーム内だとゲッコーさんの相棒が狼を大切にする人物だったな……。
ゲッコーさん自身も愛でてたし。
だから攻撃に本気が感じられないわけだ……。
これは間違いなく俺のリアクション待ちなので――、
「火事は避けたいですよね」
と、返す。
「だな~。あれ、俺は不要な人か?」
「んなわけないでしょ」
ゲームでも銃弾が通用しない相手と渡り歩いてるでしょう。
対処方法はいくつもあるって感じだろうに、牽制射撃に投げる気のないグレネード。
今回はスパルタというより、自分が戦いたくないという考えなんですかね?
この世界に来たばかりの時、俺も召喚した面々に全てを任せて楽しようって考え方だったから、強く言う事は出来ないけどね。
なので不平不満は口には出しませんよ。
「しかたない。やるかね」
残火にブレイズを纏わせる。これで斬って終わらせよう。
「まずはセンター奥のリーダーと思われるのを一気に仕留めて、混乱したところを――」
「仕留めるのは駄目だ」
「……なぜに?」
「動物に罪はない」
――……でたよ……。ベルさんのポンコツなところが……。
「せやかてベルはん。そないなこと言いますけども、あんたはんかてクラーケンのデカイのしばき倒しておまっしゃろ。それにゲッコーはんはさっき撃ちましたやん」
「適当な関西弁を使うと関西圏の人に怒られるぞ」
ゲッコーさんからのツッコミを受けつつもベルにはしっかりと反論。
「アレは巨大で脅威。しかもこちらと意思疎通が出来なかった。ゲッコー殿のは牽制だった事はお前も理解しているだろう」
――……意思疎通が出来なかったってのは、ヌメヌメな存在に体が上手く動かなくなって捕まったあげく、エンレージMAXで自身を制御できず、感情のままに出した青い炎で跡形もなく消滅させたんじゃん……。
火龍戦が一番の原因だけど、クラーケン戦でも青い炎を使用した事が弱体化の遠因でもあるかもしれないのにさ……。
どの口が言っているのでしょうか……。
「とにかく駄目だ」
「お断りだ!」
「――駄目だ」
「あ、はい……」
「トールは弱いですね」
「俺はフェミニストで動物愛護の精神が強いから」
「ハイハイ」
「コクリコ君。俺を可哀想な目で見ないように」
弟子が見ているんだ。
「じゃあ、どうする?」
焼夷グレネードを宙空に仕舞いつつゲッコーさんが問うてくる。
「こっちにしっかりと会話をさせてくれるだけのゆとりある連中ですからね。話し合いをするってのが一番いいんでしょうけどね。まあ狼との会話は難しいでしょうね? ルーシャンナルさん」
「ゴブリンの言葉は可能ですが、流石に……」
「ですよね」
なんて冗談を言えるだけの余裕もある。
ミストウルフたちは最初の牽制以降、攻撃を仕掛けてこない。
考えられるのは包囲して増援を待つってところだろう。
「このままこの場にいても相手の増援を待つだけだな」
「うん。ベルが戦うのは駄目っていうから……」
「戦うのはいい。命を奪う事は駄目だと言っているのだ」
本当に動物に対しては慈悲深いんだよな。
虫とかは駄目なくせに。
俺も別に命を奪うのは好きじゃないけどさ。
「それに理由は他にもある」
本来はバレずに行動しエリスを救うって事だったけど、相手に発見されたとなれば話し合いをするのも選択肢に含めるべきだということだった。
話し合いを円滑にする為にも、ミストウルフの命を奪って向こう側を刺激するのはよくないという。
次期王を攫っている時点で相手は話し合いなんてしないだろうけど、その可能性がゼロでない限り無用な刺激は避けるべきだというのがベルの主張。
――今のところこっちサイドは軍隊を動員せずに立ち回っている。
少数で行動するならば潜入しての救出だけでなく、交渉役といった立ち回りも出来るということだけども――、
「保険は必要だろうな」
「その通りだ」
ここはベルも同様の事を考えてくれている。
「この場に留まるだけじゃ意味がない。シャルナはリンファさんを連れてここから離れてくれ。後で合流しよう。遊撃役を頼む。可能な限り見つからないように頼む」
「分かった」
言えば直ぐさまシャルナは首肯で応じ、ゲッコーさんは俺にイヤホンマイクを投げ渡してくる。
合流するまではこれで交信をするってことだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます