PHASE-663【投法】
「私も負けてられませんよ!」
裂帛の気合いで貴石を真っ赤に輝かせて疾駆する。
立ち上がるリビングアーマーが腰に帯びた短刀によるスローイングナイフでコクリコの接近を妨げようとするも、すかさず俺がそれをメイスではたき落とす。
投擲速度程度なら、俺の現在の動体視力を有すれば防ぎきることも可能。
もしかしたらキャッチも出来たかもしれない。
「おら!」
お返しとばかりに、立ち上がる所にメイスを投擲。
ブォンと重い音を伴って、リビングアーマーの腹部に命中。
ぐらりと再び姿勢を崩したところに、石棺をましらのように飛び跳ねて接近するコクリコが、
「ポップフレア」
ボカンと顔面に直撃。
兜のスリットから黒い煙が立ち上れば、紫色の光が力なく消えていく。
遅れて鎧の関節部分からも煙が上がり、ガラガラと崩れ落ちた。
「やってやりましたよ!」
「うん……。とりあえずハイポーション飲んどけ」
頬に煤をつけて喜んで……。
「それは零距離に近いところじゃないと威力は発揮出来ないのか? さっきは普通に使ってたよな」
「確実に仕留めたいですからね」
雑嚢から投げ渡したハイポーションをグイッと飲む姿は勇ましい。
魔法なんだから範囲内だと威力減衰とかないような気もするけどな。コイツの場合は気合いでの攻撃だからな。
「便利ですねハイポーション」
まあ、お前が回復魔法の一つでも覚えれば、消費しなくていいんだけどな。
それはウィザードらしくないし、何よりティンダーをようやく覚えた俺が偉そうに言えることではない。
「魔法習得おめでとうございます」
「ありがとう」
この戦いが終わったら本気で喜んでやる。
自力習得は今回が初だからな。
スプリームフォールはリズベッド。イグニースとブレイズは火龍装備から引き出している魔法。
ようやく俺個人で出せた。
現状のレベルは63。
大魔法の一つくらい地力で使用出来てないと駄目なレベルですわ……。
さて、俺よりレベルが1高い64が――、
「来ますよ」
「おう。もう驚異とは思えないけどな」
ミスリルメイスを拾い上げ、動き出す存在を見やる。
ゆっくりとオリハルコンのロングソードを引き抜いてかなぐり捨てるあたり、お怒りようだ。
アンデッドが感情のままに行動ってのはどうなんだろうな。リンも苛立ったりするけど、あいつは特別みたいだし。
本来のアンデッドは精神制御とかありそうではあるけど、目の前のは明らかに苛立っている。
だからこそ悪手を選択したか。ロングソードをかなぐり捨てるという選択は間違いもいいところ。
本来だったらファルシオンから鞍替えするレベルだろう。
こっちとしては攻撃力アップとならずに大助かりだけど。俺もそこまでの事を考えずに突き刺したのは反省だ……。
それに侯爵がこの場にいなくてよかったよ。
自慢の得物が無下に扱われているのを目の当たりにしたら、怒り心頭だっただろう。
「で、どうなんですアレ?」
「そうだな~。なんでもそうだけど、油断したら駄目だよな」
「ならば油断せずに行けば問題ないと」
「初見は動きの良さに面食らったが、その後は俺一人で何とかなってたんだ。コクリコさんがいれば問題ないっすよ」
「仕方がないですね」
おう、ノリノリだ。それでこそコクリコ。
貴石の色は情熱の赤。
ライトニングスネークよりもファイヤーボールってことだろう。
「ファイヤーボール!」
「ティンダー!」
負けじと続く。
といっても俺のは掌にマッチ程度の火が灯るだけだが。
それで十分だけどね。
注ぎ口に着火したモロトフを構える。
やや放物線を描いたファイヤーボールを回避するためにラピッドを発動し、俺たちに真っ直ぐに迫るディザスターナイトは両手に持つ装備を構えずに接近。
速度重視ということだろう。
「失態だ。タワーシールドで防ぐべきだったな。見えてるぜ」
流石に直線的な動きとなれば、如何に高速移動だろうとも見える。
正面から向かってくる相手に対して、全身を大きく使用しての大きなモーションからの投擲。
突っ込んでくるディザスターナイトの顔面へと再びモロトフが命中。
この投擲で見事にディザスターナイトの勢いを殺すことに成功。
「見たかこのザトペック投法。ワイが異世界の村山 実じゃい!」
「また訳の分からない事をいいますね。まあ、その人物が投擲の達人なのは分かりました」
うむ! 分かってない。分かっていたら分かっていたで怖かったけどな。
しかし、投擲の達人って発言は読みがいい。
が、それでは不正解。
正解は、投擲の神だ。
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