PHASE-1269【下半身主義】

「さてミルモン。喚んで直ぐで申し訳ないんだけども――」


「オイラの力で見たいものはなんだい?」

 ――うむ。一日一回の能力だからな。ここは優先度を考えて聞かないといけない。

 フライング・ダッチマンを見つけるのはどのみち南伐の後になるから優先順位は低い。

 なので翼幻王ジズの天空要塞の場所を教えてもらうのが――いや、違うな。

 要塞の周辺は暴風によって守られているからな。聞くとすると、それを突破して辿り着く手段だよな。

 

 ――俺の考えを皆――主に先生へと語る。


「まずは天空要塞でもいいでしょうが、そちらでもよいかと」

 と、返ってきた。

 一日一回の限定能力ではあるが、今の時間帯はすでに夕方。

 行動に移すとしても明日の朝。ならば天空要塞の場所は明日でも問題ないと先生。

 

 じゃあ俺の提案どおりに――、


「ミルモン。天空要塞へと行く手立てを見つけてくれ」


「分かった」

 お願いすればベルの肩から飛び立って宙に留まる。

 ベルが寂しそうな表情を浮かべる中で、


「むむむむむ――――」

 目を強く閉じて眉間に皺を寄せ、両方の眉尻を上げて力を込めるミルモン。

 制作サイドに適当につけられた千里眼の能力であっても、テキストに記載されている時点で、現実に召喚すれば扱うことは可能になるはず。

 先生や高順氏のスキルも発揮できているから、とりあえず記載されていれば可能となるはず――だ。

 もしこれでミルモンの能力が発揮されないなら、軍の進行は本当に行き詰まる。

 最悪、大軍勢に対して俺達パーティーとS級さん達だけで立ち向かうという高難易度仕様になってしまうだろう。


 だが制作が適当に設定した千里眼の能力が発揮されれば、これからの進展に対し、デカい力の恩恵を得る事が出来る。

 ミルモンも自分の力で見たいものはなんだと言ってくれた。

 そう言うって事は、実際に使えるってことだ。使えないならわざわざ言わないからな。

 俺の不安が杞憂に終わってくれると信じたい。

 ミルモンの動作と同様ながら、違った意味で瞳を強く閉じて結果を待つ。


 ――そして――、


「分かった!」

 と、俺の願いが叶ったかのように、ミルモンは自信のある大音声を上げてくれる。

 この声音に俺も刮目。

 小さな体からは想像できない程の大声と共に指し示す方角は――、


「西か」


「正確には西南西だね。洞窟に広がる国を抜けて外へと出た先の森。そこに生息する生物と巨人の力を借りることになるよ」


「生物と巨人か――」

 協力って事は敵対してないって事だな。

 友好関係となる巨人。なんとも頼りになりそうじゃないか。


「次の行き先が決まったな」

 発せば皆して頷きで返してくれる。


「それにしても洞窟に広がる国ね~」


「ギムロンに聞けばいいだろうな」


「あ、そうですね」

 ゲッコーさんの発言に納得。

 というか側にいる先生はそういった知識を頭に入れていると思うんだけども――。


 目が合ったと同時に、こちらの考えを見透かした先生は、


「ギムロン殿に聞くことで知識として活用してください」

 と、言ってくる。

 別段、先生から聞いても違いはないとは思うんだけどな。


 ――。


「――でワシに聞きたいと?」


「そうそう。洞窟の国といえばドワーフでしょ。ドワーフといったらギムロンだからね」

 空が薄暮へと変わった時間帯となっても、ギルドの鍛冶場で粗製ながらも作りがしっかりとした刀を制作していくギムロン。

 円盤状の砥石を回転させながら切れ味抜群の刃へと変えていく。

 豪快に火花を散らしながら、一本を研ぎ終わればまた一本。

 会話をしつつ刀身を作っていき、側で助手の方が柄へと入れ込んでいって一本を一振りに変えていくという行程を見学。

 王都に戻ってからのギムロンの働きっぷりには、本当に頭が下がる。

 

 青色級ゴルムとなったから余計に責任感が芽生えいているのかもしれない。

 本来ならお食事処で酒を楽しんでてもいい時間帯だからな。


「そいで、どの洞窟なんだ?」


「王都から西南西ってことなんだけども」


「なんじゃい。アラムロス窟じゃねえか」


「知ってるようだな」


「知ってるもなにもワシの出身よ」


「そうなんだな」

 だから先生は聞いて知識にって言ったわけか。

 出自の存在に聞いた方が知識は多く得られるって事を言いたかったんだな。


 聞けばアラムロス窟は、様々な場所に点在する洞窟の中に住んでいるドワーフ達の中心地となる場所なのだという。

 そこにはこの大陸全土のドワーフ達のリーダーである、ダーダロス王が居を構えているそうだ。

 つまりドワーフ達にとってアラムロス窟は王都になるわけだ。

 

 そしてダーダロス王という名は以前に耳にしたな。

 俺の第二の愛刀であるマラ・ケニタルを制作する時、エリスの父親――つまりは前エルフ王とギムロンの会話にも出てきたドワーフだったな。


「んで、なんでワシの故郷に用があるんだ?」


「そこを通過した先にある、森に用があるんだよ」


「エルウルドの森かい……」


「いや、名前は知らないんだけども」

 明らかに声に暗さがあるし、目を細めての不機嫌な表情へと変わる。

 ドワーフにとってそこは禁足地みたいな場所なのかな?


「その感じからしてドワーフにとってエルウルドって森は神聖な場所なのかな?」


「んなわけあるかい!」

 怒号に鼓膜がやらせそうになってしまった。


「すまんすまん。青色級ゴルムらしくなかったの。あの森には魔王軍に組みしとる連中がおんのよ」


「は!? そうなの!」


「おう。森を縄張りにしとる猿どもよ」


「猿?」


「おう、下半身でしか物事を考えられん連中よ」


「だとしたらやばいよな。ギムロンの故郷の洞窟と隣接しているなら、攻撃対象になるんじゃないの?」


「あんな猿どもをワシらドワーフが恐れるもんかい。昔から恐れていたのは向こう側よ。だから窟に攻めてくるってのはねえ。あっても返り討ちよ」

 現在、ギムロンが言う猿どもって存在は大人しくなっているそうだ。

 森へと隠れて出てこないという。


 俺がこの世界に来る前のこの大陸は、魔王軍が王都まで攻め込んでいた。

 それに便乗するように猿と呼ばれる連中も魔王軍に組みし、正規軍ではない愚連隊

のような立ち位置で悪さをしていたという。

 俺が転生した時、オークを中心とした軍勢は女性や子供を攫っていたけども、この猿たちは女性を攫うということにばかり執着しているそうだ。

 だから下半身でしか物事を考えていないとギムロンは侮蔑したわけだな。


「で、その猿ってのはどんな種族なの?」


「カクエンっちゅう人間と変わらん身の丈からなる二足歩行の猿の亜人よ」

 青黒い体毛に覆われ、濁った黄色の虹彩をもった種族。

 魔王軍に組みしていた時の装備は、棍棒や他者から奪った利器程度。

 文化レベルはそこまで高くはないようだけども、人語を使用する事は可能だという。

 知識は高いがその知識を下半身を振る事にしか活用できない残念な連中だと、ここでもギムロンは侮蔑。

 一にも二にも頭内にあるのは女を犯すことの一点のみだそうだ……。

 

 ――……と、出来ればその部分は大声で言ってほしくない発言だったぞ……。

 鍛冶場と一体化した売り場の外側では、女性冒険者たちが驚いた表情でここを覗き込んでいるからな。

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