PHASE-1268【贖罪】

 ――…………。


「「「「はぁ?」」」」


「はい。皆して頭の上に疑問符を浮かべるようなリアクションをしない」

 肩越しに見つつ言ってやる。


「いやですが、それはミルモンにとってなんのうま味もないでしょう」


「心配ご無用だ。コクリコ」

 皆して俺に対し首を傾げるけども、この執務室の中で俺を除けば、首を傾げていないのがもう一体。

 ――ポカンと呆気にとられた表情を見せてくれる対面のミニマムサイズ。

 さっきまで悪そうに笑みを湛えての可愛い顔だったけども、今は違う。


「どうだミルモン。一緒に旅に出てみないか? 夜空の下でたき火を囲んでご飯を食べる。苦労しつつも共に目的を達成して喜びを分かち合う。見たこともない生物や秘境を目にする冒険を俺達の仲間になって経験してみようぜ」

 ――訪れるしじま。

 俺の背後では悪魔にとってメリットと呼ばれるものを提示しているとは思えない。といった会話をゲッコーさんと先生が語り合っている。

 残りの面々も二人の意見がもっともだと思っているのか、それに肯定的なやり取りを行っていた。


 ――しかし当の本人であるミルモンは、俺の提案を耳にして呆気にとられていた表情を隠すようにうつむいてしまう。

 ソファの真ん中にちょこんと座った小さな存在。

 次にはどういったリアクションを取るのだろうか? と、俺の背後に立つ面々は会話を止めて動向を窺う姿勢となっている。


「まったく……」

 顔を伏せたままだがここで小悪魔が一言。

 聞き取るのも難しいくらいの呟きだった。

 背後でやり取りをし続けられていたら聞き逃していたことだろう。


「どうかな? 俺の提案は?」

 ミルモンの呟きの続きを聞くため問うてみる。


 ――……ここでも生まれるしじま。

 だが、直ぐにそれは破られ、


「悪くない提案だと思うよ」


「お……そうか……」

 こっちが提案をし、それに対して肯定。

 本来なら喜ばしい事だが、俺は言葉を詰まらせてしまった。

 伏せていた顔を起こしたミルモンの目には、わずかだけど涙が浮かんでいるような気がした。

 俺の視線が気になったのか、ミルモンは顔を左右に強く振っていた。

 浮かべた涙を振り払う為だったのかもしれないが、そこは見て見ぬ振りが紳士的な選択だろう。

 俺の提案はミルモンの心に届いたようだ。

 

 ――炎上してしまい回収事態となった作品、デーモン・モンスターズことモンモン。

 主人公である人間の少年、または少女を選択して名前を決めた後、三体の小悪魔の中から一体を召喚し、旅のお供とする事から物語が始まる。

 主人公と旅をするために生み出された三体の内の一体――一人がミルモン。

 だからこそ一緒に冒険、旅をと提案をすれば、ミルモンの存在が肯定されることになる。

 この提案がミルモンにとって最も欲するものだと思ったが、はたして正にその通りだった。


「じゃあ兄ちゃん。これからよろしく頼むよ」


「おう」

 羽をパタパタと動かしてソファから飛べば、俺の目の前で留まる。

 小さくて愛らしい手を出してくるので俺は食指だけを伸ばす。

 ミルモンは俺の食指を両手でしっかりと掴んで握手を交わしてくれた。

 代償やら生贄なんて単語を使用していた時の悪い笑みではなく、嬉しさを前面に出ての笑顔だった。

 

 ミルモンのこの喜びのリアクションに俺は心を痛めてしまう……。

 パクリゲーであり、ネットにて大炎上した作品であろうとも、作品に登場するキャラ達には罪はない。

 さわり程度でやめるのではなく、ちゃんとコイツ等を使用してゲームクリアはしておくべきだった……。

 目の前で喜ぶ小悪魔にもだけど、俺が喜ぶからと買って来てくれた爺ちゃんにも悪かったからな。

 

 その罪を贖わせてもらおう。

 この異世界で。


「これから頼むぜミルモン!」


「おまかせ!」

 快活よく応じてくれれば、俺の左肩にちょこんと座る。


 その刹那――、


「ずるいぞトール!」

 俺とミルモン。双方が抱く感情は違えども、共に旅をするという共通点で笑顔を向け合っている中でベルが嫉妬……。

 愛らしい小悪魔ミルモンを肩に乗せるという事がとても羨ましかったようである。


「ベルの肩にも乗ってあげなよ」

 紳士である俺はミルモンに提案をする。


「私のここ――空いているぞ」

 埼玉県所沢市出身のお笑い芸人みたいな事を言うヤツだな……。

 左肩をアピールするも、


「オイラを召喚したのは兄ちゃんだからね。兄ちゃんの肩でいいよ」

 と、俺から離れないと返し、継いで、


「あの美人の姉ちゃん、オイラにずっと強い圧を向けてくるからしんどいんだよね……」

 と、俺に耳打ちで告げる。

 当然ながら先ほども聞き逃さなかったベルの耳は、ミルモンの今の発言も聞き逃さなかったのでショックを受けていた。

 負の感情がご馳走な小悪魔にとって、愛らしい存在を目にすることで対極の感情である幸せオーラを発するベルは特に苦手なんだろうな。

 

 それ以前に、可愛いものを目にすると興奮するからな。

 だから対象となった方は圧を感じて怖がるんだよ。

 ゴロ太とのファーストコンタクトの時もそうだったでしょ。

 学習しなさいよ最強さん。

 

 だけど嫉妬を抱かれるのも困るので――、


「ちょっとでいいから肩に乗ってあげて。この中で最強さんだから。もしもの事があった時、ミルモンも頼ることになるからな。その為の信頼関係の構築も大事だぞ」


「兄ちゃんがそういうなら――」

 パタパタと飛翔し、ベルの肩へと乗っかり、


「よろしくね」


「もちろんだとも!」

 興奮するベルにミルモンが苦笑い。

 周囲の面々は愛玩を前にしたベルのいつもの光景って感じで、呆れた笑みを湛えていた。

 ミルモンがベルの肩に乗っかっているので、そこに向けて再びプレイギアを向けてステータスを確認。


「ほほう。これはこれは」

 召喚したばかりの時は忠誠の数値は10しかなかったのに、今では75まで跳ね上がっている。

 俺の提案である一緒に旅をするってのがよほど嬉しかったようだな。

 ゲーム開始時に主人公のお供キャラになるだけあって、懐きやすいという設定があるのかもな。


 これから一緒に冒険をしていけば、更に忠誠の数値が上がっていくのかもしれんが、忠誠よりも信頼関係による揺るがない結束を構築していこう――――。

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