PHASE-1156【その洞察力よ……】
「.40S&W弾なんだよ……」
牽制のつもりだったから、そもそも通用はしないとは思っていたけども……。
だけども、少しはダメージっぽいのを受けてもいいと思うんだけどね……。
挟んでいる指が摩擦で痛いとかさ……。
「で、その数字はどういった意味だ?」
挟んだ弾丸を見つつ、痛痒も感じないままにこちらに容易く返してくるもの……。
「……」
「返答なしか。それにしてもおもしろい形状だ。鏃のように先端が鋭くない。――なるほどそうか。体を貫通させるのではなく、体にこの鉛を留める事で体内に威力を吸収させるわけか。それにより体内への損傷を大きくするといった原理なのだな。一般的な兵が使用する弓ではどうしても弓力に限界がある。故に先端を鋭くして空気の抵抗を少なくし、威力を維持させることで防具を貫き体に傷を与える。が、お前の使用するソレは防具を容易く貫く事が可能であるから、先端を鋭くしなくてもいいわけだ。また鉛に独楽のような回転を加えるのは、鉛の飛翔時に安定性と直進性を高めるため。矢で言うところの矢羽根の役割を果たしているのだな。違うか?」
――……。
「どうなんだ? さっきから口が開きっぱなしだな。少しは口を動かす努力をしたらどうだ」
「……分かりません」
そんな事はゲッコーさんやS級さん達に聞いてくれ。
そもそも弾丸がなんでそんな形状になったかなんて歴史は俺の知るところじゃない。
ちょっとかじった程度だし、ハンドガンの弾はそんな形だけど、ゲッコーさん達が使用するアサルトライフルの5.56㎜なんかは先端は尖っているからな。
俺の知識は広くて浅い。
だからしっかりとした答えは返せない。
「そうか。知りもしないモノを使用する。愚者の行いだな」
――……返す言葉もない。
「だがよく考えられている。非常に合理的だ。発射時の大きな音によって気取られるというところでは、音を発しない弓矢の方が隠密性に優れた行動も出来るが、総合面ではお前が手にする武器が秀でている。ソレを作りだした者は天才だな。是非とも聖祚の配下に加えたい。お前を殺す前に製作者を教えてもらおう」
「無理だね」
「安心しろ。しっかりとフル・ギルを使用してやる。その武器の作り手を教えてもらう為にな」
知ったところでライノの設計者であるアントニオとエミリオの両氏はこの世界の住人じゃないからな。
――……弾丸の歴史とかは知らないくせに、チアッパ・ライノの設計者の名前は知っている。
正に広くて浅い知識だな。
マニアックなところだけを知りたがるというのが俺だ!
まったくもって誇れないけど!
「さて、不可思議な武器を鹵獲しつつ、お前の心身を完全に破壊させてもらう」
喋々と語ってくれるのは余裕の証。
おかげでこっちは少しは呼吸も整ったけども、目の前の絶望に折れそうな心を保つだけで精一杯。
なんだよ弾丸を指で挟んで止めるとか……。
そんな芸当は、願いを叶えてくれる七つの玉を探す冒険作品でやってくれ。
この世界でそんな事をするんじゃない。
――残りの四発を撃ち込んでみても左手を払うだけで弾かれる。
四発に対しては掴むのも面倒くさいとばかりの動作だった……。
――膂力にマナだけでなく、知能知識も俺なんかと違ってとんでもなく高い美人だよ。
「マスリリース」
「マスリリース」
オウム返しによるフランベルジュからの一振り。
俺の黄色い光刃とも、スケルトンルインやエルダースケルトンの赤黒いものとも違う。
デミタスのは銀色の光刃からなるものだった。
同色の燐光を纏いながら、俺の光刃を打ち消して迫ってくる。
威力、色味。俺のと違って強くて神々しい。
まるで圧倒的な強さと格好いい技を持っている主人公みたいだな。
じゃなくて!
「イグニース」
言ったとほぼ同時に光斬が直撃。
「だぁ!?」
防ぐ事は出来たけどもあまりの威力の高さに、俺の体は浮き上がり勢いよく下生えの上を転がる。
「防ぐ事は出来たみたいね」
余裕の発言をしつつもしっかりと追撃もしてくる。
即座にマッドメンヒルと発せば、俺の転がる地面から先端が鋭利な形状からなる硬質化された泥の柱が現れる。
寝たままの状態で留まっていれば間違いなく串刺しになっていた。
「一つ一つの攻撃が即死級だな……」
跳躍して巨木の枝に掴まり難を逃れ、安堵から声を漏らす。
「その程度では死なないでしょ。なんといってもお前は勇者なのだから」
即座に背後を取られれば、背中に鈍く――とても重い衝撃が走る……。
鈍痛の中で吹き飛ばされるのは理解できたし、即座に地面へと叩き付けられた衝撃と痛みも理解する。
理解するって事は――意識はしっかりとしているという事。
火龍装備のおかげでこの程度のダメージで留める事が出来ている……。
並の装備なら間違いなく今の一撃で死んでた……。
――……いや、死んでいないのか……。
死なないように手を抜いてくれているんだったな……。
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