PHASE-1157【喚ばれるのは嫌だというのは分かった】

 ――……手加減されているというのが分かっているからこそ、この圧倒的な力の差ってのには絶望感しかない。

 精神は絶望に支配されそうになり、体は鈍痛に襲われる。

 心身共に強い衝撃によって整わない呼吸だが、そんな中でも冷静に行動が出来ていた自分を褒めてやりたい。

 

 痛みを覚えるとほぼ同時に、雑嚢からハイポーションの入った小瓶を素早く取り出して呷るという動作が出来たことは、間違いなく成長した証だろう。

 この動作が当たり前のように出来ていたら、マジョリカ戦でもシャルナとリンの手を煩わせることはなかっただろうしな。


「貴男が回復をしなくても私がやってあげると言っているのに」


「御免こうむるね」

 背後からの声に反転して残火を横凪で振るも……虚しく空を切る。

 既に俺の背後には立っていない。


「そら」


「ぎぃ!?」

 またも背後から声が聞こえるが、今度は対応できず背中に衝撃が走る事になる……。

 重い一撃で軽々と吹き飛ばされ地面を転がる俺。

 巨木に衝突することでしか自分の体を止める事が出来なかった……。


「こりゃ……死ぬ……な……」

 こんな攻撃を喰らい続けていたら死ぬのは確定……。

 更なるハイポーションを呷る。

 戦闘中に飲みすぎると吐く可能性もあるのでダメージを受けた部分にかけたいが……、


「さっきからかけにくい背中ばっか狙いやがって……」


「だってわざとだもの」


「アクセル」

 再びの背後からの声にアクセルによる移動で距離をとり、声の方向に構える。


「もう……嫌になる……」

 俺の体を受け止めてくれた巨木が幹からギィィィィ――と大きな軋み音を発し、ガサガサと枝葉からの音も織り交ぜながら倒れていく。

 傾く中で側の巨木に支えられるような形となって完全に倒れることはなかったけども、あの場に留まっていたらと想像すれば総毛立つ。

 デミタスが手にするフランベルジュの一振りにより、幹回りが優に十メートルを超えている巨木が簡単に切り倒される光景。

 以前にもデスベアラーが分厚い壁をバターのように斬っていたけども、目の前の光景はそれ以上のインパクトを与えてくる……。


きこりが職を失って路頭に迷ってしまうね……」


「そういった余裕ある冗談が言えるならまだまだ楽しめそうね」

 くそ!

 どうするよ。プレイギアを手にしてベルやゲッコーさんを召喚するか。

 以前、先生を王都からエンドリュー辺境候が統治する城郭都市ドヌクトスに召喚することが出来たから、この場に召喚する事が可能なのは理解している。


「さあ、逃げてばかりいないで少しは挑んできてはどう? さっきから後手に回ってばかりで情けないと思わないの? それとも保護者が近くにいないと何も出来ない勇者なのかしら?」

 ――……本当に……、俺の心を読んでんのかと疑いたくなるね……。

 いま正に実行しようかと考えていたところに、嘲笑によるその発言なんだからな……。

 別段、読心術ってのが出来るわけじゃないんだろうが、しっかりと俺の考えを読んでくるところはこの状況下だと恐怖でしかない。

 圧倒的な実力差に加えて読心術まであってたまるかよ!


 ――美人、美人、美人。

 出来れば戦い以外で楽しく接したい。

 和解して良好な関係を築きたい。


「――何を考えているのかしら? 辞世の句?」


「いや、ちょっと安心しただけ」

 やはり心までは読めないようだな。

 偶然で良かったよ。

 まあ、だからといって状況が好転するという事ではないけど……。


「どうするの? 保護者に泣きすがる?」

 挑発するように首を傾けながらの発言。


「けしかけるのなら乗ってやるぞ。本当に喚んでいいんだな? それともソレをしてほしくないから、俺のやっすい矜持を挑発してんのか?」


「どっちかしらね。そもそも呼んで直ぐに来るのかしら?」


「もちろんだ」


「へ~」

 小馬鹿にした笑みを向けてくる。

 名を出したところで、いきなりこの場に来るものかといったところだろう。

 まあ、普通はそう考えるよな。


「いっとくが――あの二人は俺が召喚した存在だ」


「!?」

 お、小馬鹿にした余裕の笑みが消えたな。


「ご要望なら即ここにあの二人を召喚するけども」


「世迷い言を」


「世迷い言か真実か試すか?」


「ふんっ!」

 まあそうなるわな。

 挑発はしても召喚はされたくないのが本心だよな。

 縮地からの片手持ちによるフランベルジュの一撃は――、正面からの上段。

 しっかりと確認できるだけの余裕が今回はあった。


「ほう、私の一撃を受け止めるなんてね」


「焦りを纏う剣なら俺でもなんとか防げるってもんだ」

 がに股になりながら残火の峰を左手で支え、何とか美人の一振りを受け止める。

 細腕――しかも右腕一本からの一振りとは想像できないほどの馬鹿力に対し、肉体強化ピリアを使用してようやく受け止める事が出来る一撃だった。

 コキコキ――ではなく、背骨や腰部分からギシギシとやばい音がしているけども、何とか耐えている自分をここでも褒めてやりたい。

 

 体は軋むが、防ごうと思えばイグニースを使用しなくても防げる攻撃であるというのが分かったのは大きい。

 絶望の中であっても、勝つための可能性ってのを手繰り寄せるための自信に繋がってくれるからな。

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