PHASE-615【どんな理由であれ、即死系は許せない】

「大局と言いますけども」

 まだ推測の域。リンを信じる事は――、


「階段」


「は? 階段?」

 いきなりベルが階段の二文字だけを口にする。

 なんだよ階段って?

 言われても、全くもって分からない組である三人は、顔を見合わせて首を傾げるだけだ。


「この力の間に続く階段と、上の部屋からジオフロントに続く階段はしっかりとしたものだっただろう」

 と、ゲッコーさん。

 確かに城の回廊から下る階段と比べれば、他の階段は良く出来ていた。


「それが何なのです?」

 分からない組を代表してコクリコが聞けば、


「思うに回廊から続いた階段は仮組みみたいなものだろう。あそこからちゃんとした階段になっていくんだろうな」


「勘のいいおじ様ね」


「いや、あんたより年下だと思うがね」

 なんか妙に打ち解けているな。


「もし人々の為に地下都市を築いているとしてだよ。なんで下の方から階段をしっかりしたものにするの? それだったら城から続く階段をしっかりとしたものにしたほうが、避難する時に転倒する可能性も低くなるでしょ」

 もっともな事をシャルナが言ってくれる。

 先に下層の階段を作り上げるくらいなら、ジオフロントと城の回廊を繋ぐ階段を滑りにくく、灯りも万全なものを作るべきだろう。

 なんで一番需要があるはずの階段が後回しなんだ?


「それはあの階段の優先順位が低いからだろう」


「訳知り顔だなベル」


「憶測だが、ジオフロントへの正規のルートは上ではなく――下からなのではないか」

 ベルのこの発言に対して。


「頭の切れるのが五人中に二人もいれば、パーティーは安泰ね」


「「「…………」」」

 リンの小馬鹿にした発言に対して俺たちは言い返せない。

 実際に分かっていないからね。

 でも、下からが正規のルートって事はだぞ、


「なに? この地下都市と麓は階段なんかで繋がってんのか? どんだけの重労働――――って訳でもないのか。アンデッドが工事をしてるって考えた場合、進捗状況は安定しているだろうからな」


「あら、頭が切れるのが五人中三人だったようで」

 このリンの発言を耳にした俺は、素早くベルとゲッコーさんが立つ方向へと移動する。

 残された二人が俺を裏切り者でも見るかのように睨んでくるけども、やはり賢いと思われたいからね。

 アンデッドといえば、睡眠や食事を必要としない。加えて疲労もない。

 工事や農耕をさせれば、昼夜問わずに動き続ける事が出来るってのが、小説や漫画なんかでも目にする描写だ。

 この世界でもアンデッドはそれと同じようなもの。

 長い年月、城を拠点として地下都市をアンデッド達が建設しているとなると、俺たちが目にしたものとは別の工事だって現在も行われているはず。


「もし人々の為に大事業をしてくれているなら、その事を伝えればいいのに」

 そもそも話し合いも出来ただろうに。こっちに対して攻撃なんか仕掛けてくるから無駄な戦いに発展したわけだぞ。

 俺としてはもっと言いたいことがあるんだけども、


「まあいいじゃないか。俺たちに対して即死の魔法は使用しなかったのも気をつかったからだろう」


「いやいや、ベルには使用しましたからね。ベルの実力が分かっていたとしても、使う時点で完全に敵対してたでしょ」


「ブラックコフィンを防いだから試したくなったのよ。それで死んでしまえばそれまで。その程度の実力ならどのみち魔王軍とは渡り合えないでしょ」


「はぁあ!」

 もしベルが死んでたらと想像するだけで、こっちは沸々と怒りが湧いてくるぞ。

 なのに悠長に返しやがって!


「大局の中では一人の死なんて小さなもの」


「だとこら!」


「でも、一人で大局を覆せる存在は貴重っていうのも、今回の戦いで知ったわね……」

 理や事象。自慢の魔法が悉く通用しなかった事に自信なく口を開くリン。

 だとしても、その前の発言に対して、俺の溜飲はまだまだ下がることはない。


「落ち着け。こちらの力を見極めたかったからだろう」

 見極めると言われれば、確かに俺たちを試すような言動もあった事を思い出す。

 だが、しかし――だ!


「だとしても、もっと別の方法があるだろうに」

 当の本人であるベルが気にしていないと言うけども、そうはいかない。

 訓練形式とかで品定めすればいいだけだと伝えれば、そこは軍人二人が実戦に勝る物はないと切り返してきた。

 そんな事を言われても得心はいかない。

 でもって、なんで軍人二人はリンの擁護にまわる。

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