PHASE-614【思惑】

「まったく、大したエルフをパーティーに入れてるわね」


「そう思うなら今後はシャルナに対して、ふざけた口の利き方はしない事だな」

 言いつつ俺もその辺は細心の注意をしないとな。

 絶対にBBA発言は口には出すまい。


「今後って、まるでこれからも付き合いがあるようないい方ね」


「あんたな、状況分かってんのか? どうあがいてもあんたには逆転の一手はないぞ。それとも内の中佐殿に残りのオベリスクを切り倒されたいか?」

 蹲踞の姿勢で詰め寄り凄みを利かせてみれば、合わせてくれるように、ベルがリンに向けていたレイピアの切っ先を残りのオベリスクへと向ける。


「分かった。分かりましたから! お願いだから長い年月をかけて作った努力を壊さないで。これも貴方たちのためなんだから」


「訳の分からんことを何が貴方たちのためだよ」

 いきなり友好的になるつもりか? 嘘くさい。ならなんで最初から腕を広げてウエルカムじゃないんだよ。

 今更、友好的にシフトチェンジしても誰も信じないだろうさ。


「俺たちを試していたのか?」

 って、ゲッコーさんがなにやら聞くスタイル。


「まあね」

 って、リンは言うけども俺は信じないぞ。


「違和感はあったからな」

 って、ベルが警戒はしているけどなにやら聞くスタイル。

 何だろうか、俺はなんも理解できていない。


「騙されない方がいいですよ」


「そうだよ!」

 って、コクリコとシャルナは俺と同じ考え。仲間がいてよかった。

 でもなんだろう。訳知りな感じの二人と比べると、こっちサイドは頼りなく思えてならない。


「三人とも考えてみるんだ。この上には何がある?」

 何って言われても、この上はリビングアーマーと戦った部屋だな。

 その上だと――、


「ジオフロントだろ」


「そうだ」

 首肯と共に返してくるベル。


「ジオフロントはどんな造りだった」

 今度はゲッコーさん。


「町の規模で多くの人々が過ごしやすそうな造りでしたよ」


「そうだな。じゃあ住人は誰だろうな」

 誰って言われてもな。

 大層に立派な家屋が多かった。スケルトン達が住まうには不釣り合いなほどに。

 そんな風に思えばスケルトンに悪いけども、基本リンが召喚しているだけだからな。そもそも住居がいらないよね。

 となると誰の住居? ストレイマーター達のようなゾンビか?

 それも違う気がする。

 俺はジオフロントを目にした時、長い時間を生きているから、その時間をもてあました存在が、趣味に熱中した結果だとしか思っていなかったからね。

 結局、俺もそうだけど、コクリコもシャルナも分からないといった表情だった。


「憶測だったがリン嬢の発言で確信した。あのジオフロントは魔王軍に攻められ、流民となった人々のための居住区だ」


「「「はぁ?」」」

 分かってない三人で、しっかりとゲッコーさんに疑問符つきで返事。

 ベルへと目を向ければ小さくだったが首を縦に振っていた。

 リンもベルと同じように動かしている。


「いやいや。何を言ってんですか。魔王軍と結託して姫に呪いをかけた張本人でしょうが」


「その通りですよ」


「なあコクリコ」

 そんなヤツがなんで人々のために居住区なんて造ってんだよ。おかしいでしょうよ。


「大局的に見れば姫のアンデッド化なんて些末って事だ。お偉いさんと言っても数にすれば一。大勢の命と天秤にかければ羽毛のように軽い存在だ」

 なんて冷徹に言うのか。

 渋い声で冷徹なのは怖いんですけど……。

 冷徹な声は話を続ける。

 姫をアンデッドにする事に力を貸す事で、この地に魔王軍の侵攻が及ばないようにする。

 その間に、昔からやっていたであろう人々をかくまう場所の建設を続けていく。

 リンの実力は本物。契約さえ結べば魔王軍も好きこのんでこの地に訪れることはないだろう。


 ゼノがやり手のアンデッドであったとしても、リンがゼノを低位のアンデッドと評するだけあって、ゼノもわざわざこのネクロマンサーと矛を交えるなんて事はしない。

 まず戦えば敗れるのはゼノだというのは見なくても分かる。

 

 それどころかネクロマンサーが指揮する不死の軍団が敵対したとなれば、魔王軍は無駄に敵を増やすだけとなる。

 そんなことはしたくないだろうから友好的な関係をリンと結ぶ。

 

 友好関係さえ結べれば不死の軍団を敵にする事がなくなる。これだけで魔王軍にとっては十分な成果。

 リンがここで何をしているか深く詮索して関係を悪化させるよりも、詮索せずに黙認している方が良いと判断したんだろう。と、ゲッコーさんは魔王軍側の思惑を推測。

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