PHASE-116【ダークサイド】
「痛い……」
「じっとしていろ」
「なんだよ。こっちは心配して言ってやったのに!」
「喋るな。傷に上手く塗れない」
傷薬の染みこんだ脱脂綿で、俺の口周りを治療してくれるベル。
痛い目にあったからこういう嬉しいイベントも発生したんだが。欲を言うならバニー姿がよかったな。
乾いて臭いも取れた、いつもの軍服に戻ってしまった……。
乾いた途端に、俺に対するバニー装備を解除しろの圧力は凄かったね。
「なんだ? 不快なことを考えてないか? 私からも見舞われたいか」
「いえ、結構です……」
くそ~! それにしてもあの魔女っ子め! 脇の締まったいいパンチを打ち込んで来やがって!
「言い方が悪いんだ」
と、ゲッコーさん。
「ですけども」
――――お前と俺たちとでは違うから、来ると危険。なのでここに残れって言っただけじゃないか。
そしたら【いやです!】だってさ。
だから、邪魔。足手まとい。って言ったら殴られた。
「もう少し、言い方というものがある」
おい、ベルが言えることか?
以前のお前は、俺に、それはそれはボロクソに言ってたもんだがな。
「コクリコも許してやれ。お前のことを考えての事だったんだ」
いいフォローをしてくれるねベル。
以前とは違う。
最近のこの優しさは、俺に対する恋愛感情の表れと信じたいね。
バニースーツじゃないのが悔やまれるけども。
機嫌のいい時にバニー姿に変えてみるかな。
ローキック一発で眼福になれるなら安いもんだ。
だがしかし、目の前のちびっ子に、何度も殴られる俺のフットワークの悪さも反省だな。
鍛えないとな。それに、全くレベルが上がらない。未だ24のままだ。
レゾンに来るときも、そこそこの魔王軍とも戦ったし、海賊だって倒した。でも、上がらない。
あれか、このレベルは指標だし、評価がないと上がらないって事か?
これ以上に数値を上げるには、バロニア以上の相手を倒したり、自分のスキルを高めないと、評価点からくるレベルは上がらないということかな?
魔法や技なんかを覚えれば、評価は上がるんだろう。
レベル上げが意外と、モチベーションになってるな。
魔法が使える存在は、ここではコクリコだけ。出来る事なら仲直りして師事を受けたい。
俺がコクリコに顔を向ければそっぽ向く。
現在ミズーリの甲板だ。しかも目的地まで進んでいる。
結局、コクリコは瘴気が蔓延する中をついてきたわけだ――――。
「へ」
おっと。つい嘲笑が漏れ出ましたよ。
途端に、そっぽ向いていたコクリコの体がピクリと動いた。
で、俺へとズカズカと威圧するような足音を立てて接近。
「いま――、私で笑いましたね」
くぐもった声である。それで俺は更に笑いをこぼしてしまう。
コクリコの表情はよく分からないが、怒っているのは確かだろう。
「なあ、コーホーとか、シューコーって言ってみ」
「馬鹿にしないでいただきたい!」
胸ぐらを掴まれる。
俺の周りの女性は力で訴えるのが得意だな……。
「ゲッコーさん。これ意味ないみたいですよ。凶暴です。ダークサイドに魅了されています」
「安心しろ。コーホーは、最後は正義に戻る」
「ゲッコーさんまで私を馬鹿にしてますね!」
ワンドをゲッコーさんに向けると、途端に向けられた方は諸手を挙げて降参のポーズ。
コクリコの現在はというと、ゲッコーさんが出してくれたガスマスクを装備している状態。
小柄な体なのに、頭だけが一回り大きくなった姿は何とも滑稽。
笑うなというのが難しいんだよ。
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