PHASE-115【東奔西走の美丈夫】

 ――――朝食の時間。

 昨夜に続いて、港で炊き出しだ。

 

 各家庭で配った食料を食べればいいのにね。不安が残っているのか、それとも皆で解放の喜びを堪能したいのか。

 分かることは、食事をいただく皆さんが、一口一口を大切にしているということだ。

 

 日本で生活してた時は、田舎だったが、ちょっと歩けばコンビニはあった。

 当たり前のようにおにぎりや弁当が陳列。簡単に食べられるお手軽さ。

 残れば廃棄され、新しいのがすぐに陳列される。

 

 日本の食糧自給率ってたしか40%前後だったよな。

 なのに、飽食国家と言われている。

 この世界に来て食の大事さを知ると、日本ってすげえいびつな国だなと考えさせられる。

 そのいびつさを考えることなく生活をしていた俺が、偉そうな事は言えないけどな。


「どうした?」

 眼前の光景を見ていると、ベルが不思議そうに俺を見ている。


「いやな。今度からパンの一欠片も無駄にしないようにしようと誓ってたんだよ」


「よい心がけだ」


「だろ。だからその恰好でトレイを持って飲み物を俺に持ってきてよ。その光景を眺めていたいから」


「折角に褒めてやったのにな。その性根は正さないとな」

 もう蹴りはいいよ……。


 絶賛バニースーツな美人がいるなら、飲み物を頼むのが男としての正しい行動だろう。

 その事を力説したら、なぜか本日二度目の蹴りが外側広筋にクリティカルヒット。

 一度目と寸分違わぬ位置への直撃。

 

 流石に涙が流れるよ……。


「うむ。美味しゅうございました」

 痛みを引きずりつつ朝食を終える。


「満足になったところでいいでしょうか」


「はい……」

 改まっているところが、嫌な予感しかしないです。先生。


「ゲッコー殿にはご苦労をおかけしました」


「いや、結構簡単だった」

 おっと!? いい加減、気配を消して背後に立つのはやめていただきたい。

 

 ――――朝食の時にいないと思ったら、ゲッコーさんは宴を終えてから、海賊たちを尋問。

 簡単と言うだけあって、助かりたいが為に、魔王軍の情報を色々と吐露したそうだ。

 

 所詮は力に媚びへつらっただけの従属。

 それ以上の力を目の当たりにすれば、簡単に屈する凡愚たちと、先生は辛辣だ。

 

 で、そいつらが、どこからシーゴーレムを連れてきて、砦には扱いきれないクラーケンを飼っていたのか。

 

 それら全ては、あの入り江の砦から更に西に進んだところに、魔王軍が統治する要塞あり、そこからの派遣だったそうだ。

 

 海上に巨大な要塞を築き上げ、そこに四大聖龍リゾーマタドラゴンの一柱である火龍が囚われているとの情報を得た。

 

 コクリコが単身でレゾンの宿に忍び込み、盗み食いをしていた時にも、海賊たちがそんな会話をしていたと言っていたから、ゲッコーさんも信憑性が高いと思っている。


「まさかこんなにも近くに、火龍がいるなんてね」


「近いというわけでもない。この世界の船のレベルだと、そこまでの航行が難しいだろうな」

 なるほど。簡単だと思えてしまうのは、ミズーリがあるからだな。

 海には魔物だっている。クラーケンが出たら、船なんて簡単に沈められる。


「要塞一帯の瘴気は間違いなく濃いでしょう」

 ゲッコーさんに続いて先生。

 

 俺たちには効果が無くても、この世界の人間には効果は絶大。

 魔物が潜む海に、瘴気。これ自体が難攻不落になる要員だな。

 

 となれば、実行部隊は、俺、ベル、ゲッコーさんの三人行動か。


「もちろん先生は」


「瘴気が浄化された後、王都とレゾンを結ぶ街道の治安維持に頭を使いたいのですが……」

 うむ、申し訳なさそうだ。

 仕方ないよね。大事な事だからな。

 

 発言は小気味がよかったですよ。

 瘴気浄化後って事は、俺たちが勝つと信じているって証拠だし。


「じゃあ、久しぶりの三人での行動だな」

 と、ゲッコーさん。

 コクリコは居残り組だ。

 というか、このままパーティーから卒業という事で――。

 

「囚われた火龍を救い出せば、力となってくれるでしょう。聖龍の力は絶大とのこと、帰りは楽でしょう」


「頑張ってきます」


「頼もしい限りです」

 大言を吐けるのは、ミズーリの存在だよな。

 俺が眺めていれば、先生もミズーリへと目を向け、


「私もあのミズーリなる巨艦が活躍するところを現場で見てみたかったですな」


「いずれ見せますよ」

 それは楽しみということで、先生は笑みを見せて、皆に挨拶をすれば、ヒッポグリフに乗り、直ぐさま王都へと帰って行った。

 

 俺たちが先陣を切っているが、ああやって王都から俺たちのところに来て、また大急ぎで王都へと戻って、今後の対策を考える。

 だから俺たちも安心して前線にいれるわけだ。

 

 王都では開拓、農耕に修復と、山積な案件ばかりなのに、イケメンフェイスに疲れを見せることなく頑張ってくださっている。

 

 高校に入学してから、夏休みの死ぬまでの間のだらけていた俺に見せてやりたいよ――――。

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