PHASE-1332【物差しにはなる】
「たかが掠り傷をつけた程度で勝ったつもりになるない!」
矢庭に立ち上がり、周囲に回復! と怒号で告げれば、金棒を運んできた取り巻きの内の二人によりファーストエイドがダブルで唱えられる。
「……クソ! 軍監殿の言うとおりかい……」
さっきの抜き胴は残火によるもの。回復の遅さに苛立っているご様子。
「なあ、ミルモン」
「なんだい?」
「あいつは協力的な巨人にカテゴライズされるかな?」
浅く斬ったのは巨人が理由だったための手心。
「はっきりと見通すことは出来てないけど、違うでしょ。それは初対面の時からでも分かってたと思うよ」
ミノタウロスは協力的な巨人ではないと直感的に察するミルモン。命を奪うつもりでくろいバリバリを使用したわけだしな。
ミルモンの言うように初手での言動で、俺も怒り爆発だったしな。
――だがしかし――だ。それでも巨人である事にかわりはないんだよな。
念のために――、
「降伏しろよ。悪いようにはしないからさ」
伝えれば、
「黙れい! するわけないだろい!」
思っていたとおりの返答だった。
「じゃあ次の提案。その間に回復させてやるから」
「上から言うない!」
とか怒号で返してくるけども、回復できるという提案は魅力的だったようで、怒号とは裏腹に動こうとはしない。
「投降しなくていいから、俺達と対等な協力関係にならないか?」
「はあ? 頭がいかれたのかい?」
もの凄く馬鹿にした口調だった……。
「返答は?」
「するかい! この森を出て殺戮と陵辱を楽しみたいんだよぉう!」
あ、これは間違いなく手心を加えなくていいヤツだな。
――芽生える殺意を抑えつつ、
「ここで俺らに協力的な巨人とかいるかな? こっちとしても大戦に備えて力自慢の巨人を登用したいんだよね。大型装備や攻城兵器開発とかの時短にも繋がるからさ」
本当であり嘘を伝える。
実際にそういった装備を制作できる巨人がいてくれたら嬉しいからな。
当然ながら主目標であるミルモンの見通す力によって得ている内容は口には出さない。
「いるわけない! いたとしてもそうならねえように力で抑えるもんだい!」
――てことは、少なからず力で抑え込まないといけないのが存在するってことなのかな?
グレーターデーモンのヤヤラッタは抑えられるようなタイプじゃない。
そもそも軍監だし。
となれば、この地には別の巨人がいると考えていいだろう。
「ああ! 早いところこんなしみったれた森から出て、殺戮を楽しみたいんだよぉい! でもって柔らかな肉を喰らいてえなぁい。特に人のは最高だよい!」
下卑た哄笑を耳に届けてきたので、
「あっそ。じゃあ、お前はもういいよ」
「!?」
俺の今の一言からなる声音は、ミノタウロスにはすこぶる酷薄に聞こえたようだ。
デカい図体が一歩後退し、表情も強張ったものへと豹変。
「お、お前たち。さっさと掩護しろい!」
上擦った声で取り巻きのオーク達に攻撃魔法を! と指示を出せば、俺へと向けて腕を伸ばし、魔法を発動させようとしているところに――、
「アハハハハハハ――――!!」
この場で誰よりも騒がしく、自分の強さに酔いしれ、自分の強さを周囲へと見せつけているコクリコが横切る。
操るサーバントストーンから放たれる大きなファイヤーボールにより、取り巻きは吹き飛ばされてしまった。
当の本人は別段、俺をフォローしたつもりはなかったようで、ひたすらに敵に対して破壊と恐怖を振りまく存在となっていた。
「……やっぱスゲえな。リンの装身具と、アドンとサムソン……」
「そこはコクリコの姉ちゃんじゃないんだね……」
「いやまあ凄いんだけども、あの姿は強者というよりバーサーカー的だからな~」
「確かに、強いけど残念な強さだよね」
肩を竦めるミルモン。
バーサーカー的な行動だけども、相手を圧倒しているのは事実。
周囲はコクリコに任せておけば問題ないな。
最前線ではゴロ丸が大暴れ。
反対にパロンズ氏の召喚したマッドゴーレムの動きが鈍くなってきている。
どうやらタイムアップのようだ。
「キュウ!」
と、ゴロ丸が発せば、マッドゴーレムが体を丸めるという行動。
それをゴロ丸が持ち上げると、
「キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」
「ええ……」
敵陣へと向けて投げつけて倒していく。
同時にマッドゴーレムが消滅する。消滅タイミングに合わせての連携攻撃……と言うべきなの……か? というより、ゴーレム同士って意思疎通が取れたりするのかね?
パロンズ氏には悪い事をしたような気もするが、当人はまったく気にしておらず、大暴れするコクリコの取りこぼした相手を撃退することに注力していた。
「バッハァァァァァァ!」
余裕のよそ見と判断したのか、隙ありとばかりにストーンブラストからの金棒による接近。
「だからパターンなのよ」
ラピッドで横移動して面制圧を回避し、再びラピッドを使用して迫ってくるミノタウロスへと一足飛び。
「んんっ!?」
ミノタウロスの動体視力だと俺の動きを捕捉することは難しかったようで、こちらが刀の間合いに入り込む間も対応することは出来ず、ただ口を歪めて驚きの表情を作るだけだった。
軽く跳躍し、その驚く表情を維持させたまま――残火で横一文字を書いて首を斬り落とす。
残った体は力なくその場で倒れる。
力ない倒れ方ではあったけど、立派な体躯と金棒による音は豪快なものだった。
「こんな下品なのにも……」
「手を合わせるさ。こんな状況だから簡素だけどな」
「簡素でもするんだもんね」
「死ねば皆、平等の骸ってことで」
「ふ~ん」
俺と小悪魔ミルモンでは死生観が違うようだな。
死体蹴りってわけじゃないけど骸となった存在を評価。
――ミノタウロスは膂力はあっても弱かった。
アクセルを使用するまでもなく、ラピッドだけで翻弄できたのが良い証拠。
この森で行動している
幹部でこの程度なら、油断さえしなければ多勢であっても幹部以下に苦戦することはないだろうな。
やはり警戒すべきはヤヤラッタ――そして、この軍勢の指揮官。
ヤヤラッタが指揮官であるなら問題が一つ無くなるんだけども、軍監として目付役で従軍しているわけだから、指揮官は別にいると考えた方がいいだろうな。
その辺のことをミノタウロスから聞いてから斬ればよかったと反省。
しかし――これだけ暴れてるのに、ヤヤラッタと指揮官に動きがないのは不気味だな。
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